取締役会を書面決議で済ませてよいか?
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<ポイント>
◆会社法は書面決議により取締役会決議を行うことを認めている
◆ただし、ガバナンスの実効性が保たれるか留意すべき
◆安易に書面決議によることで経営判断上の責任を問われることも

取締役会決議を書面決議で行いたいのだが…というご相談を受けることがよくあります。
旧商法時代と異なり会社法は一定の要件のもとで取締役会決議を書面で行うことを認めています。要件としては、書面決議に関する定款規定があること、取締役全員が同意していること、監査役からも異議がでていないことの3点です。
取締役の同意の意思表示は電子メールによることも可能です。

ただ、ガバナンスの観点からは、要件さえみたせば何でも書面決議で済ませてよいということではありません。取締役会は実際に会議を開催して議論を交わすことを第一とすべきであり、これは会社法が便宜的な措置として書面決議を認めているとしても変わりないことです。
書面やメールのやりとりだけで済ませるのでは取締役会が形骸化していきます。
もし書面決議により決定した事項が原因となって会社に損失が生じた場合、「会社法が書面決議を認めている」などといったところで取締役は責任を免れるものではありません。

アパマンショップ事件最高裁判決(最高裁平成22年7月15日判決)をはじめとして、判例は経営判断にいたるプロセスも考慮したうえで取締役の経営判断上の責任の有無を判断しています。
判例がいう経営判断のプロセスとは、会社法上の決議要件をみたしているかどうかというような形式的なことではありません。然るべき専門家から意見聴取を行ったかどうかといったことも問題としている判例の姿勢からしても、より実質的な意味で意思決定のプロセスが問われています。
安易に取締役会決議を書面決議で形式的に済ませてしまうことは、経営判断上の責任が問題となった際には、むしろ取締役の責任を肯定する方向で働きます。つまり取締役にとっては言い訳どころか不利な要素になるのです。

書面決議はあくまで例外的な措置であり、とくにデリケートな事項を書面決議で決定しようとすることには慎重でなければいけません。
取締役同士が顔を合わせて議論することが難しくとも、書面決議による以前にまずはテレビ会議・電話会議の方法による取締役会開催を検討してください。

そのうえで例外的に取締役会決議を書面決議で行うことが許されるのはどのような場面でしょうか。
ガバナンスの維持と書面決議による必要性のバランスを考慮すると、おおまかにいって次のふたつのパターンになるでしょう。
1つ目のパターンは、軽微な事項について決定しようとする場合です。たとえば、すでに取締役会で実際に議論して大筋の内容について了解が得られている事項について、細かな補充・修正を行う場合です。
2つ目のパターンは、取締役会で決定すべき重大事項であるが、緊急性がきわめて高く取締役会を開催している時間的余裕がない場合です。緊急性から書面決議によらざるをえないとしても重要事項が問題となっているわけですから、議題提案者はそれにふさわしい説明を行わなければいけません。

最後に、関係する注意点をもう一点書いておきます。
代表取締役、業務執行取締役はすくなくとも3か月に1回は取締役会において業務執行の状況を報告すべきものとされ、この報告を書面で行うことは会社法も認めていません。つまり、取締役会を全く開催せずにすべてを書面ですませることは会社法上も許されていません。