<ポイント>
◆第三者委員会は企業等から独立した委員のみで構成され、調査等を行う
◆不祥事が組織ぐるみ、既に社会問題化した状況などで第三者委員会は設置される
◆不祥事情報把握の端緒となり、信用棄損を回避または低減する内部通報制度は有用
最近、企業等の不祥事が発覚したとき、「第三者委員会」が設置されることがよくあります。直近では食材偽装問題を受けた阪急阪神ホテルズ、近鉄旅館システムズが、弁護士ら、外部有識者を委員とする第三者委員会を設置しています。
阪急阪神ホテルズは、同委員会を設置して「メニュー表示に関する事実調査、原因究明、再発防止策の策定及び提言を実施し、メニュー表示の適正化に関する取り組みを進める」としています。
そのほか社会問題となった不祥事では、今年の主なものだけでも、全日本柔道連盟(指導者による暴力問題)、みずほ銀行(暴力団融資問題)、カネボウ化粧品(白斑問題)、日本野球機構(統一球問題)、大津市ほか(いじめ問題)、日展(入選の事前調整問題)、コーナン商事(取締役との不透明取引問題)などにおいて、第三者委員会が設置され、調査報告がなされています。
日本弁護士連合会は2010年に「企業等不祥事における第三者ガイドライン」に策定しています。これを踏まえて「第三者委員会」について説明していきます。
ガイドラインでは第三者委員会について、「企業や組織において不祥事が発生した場合に、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義づけています。さらにその目的を「すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復すること」としています。
ここでいう不祥事とは「犯罪行為、法令違反にとどまらず、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等」いいます。全柔連、大津市、日展などにみられるとおり、企業のみならず、公的な組織団体も対象としています。
第三者委員会の委員数は「3名以上を原則」としており、その適格性につき「委員となる弁護士は、当該事案に関連する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス等、企業組織論に精通した者でなければならない。第三者委員会の委員には、事案の性質により、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い。この場合、委員である弁護士は、これらの有識者と協力して、多様な視点で調査を行う。」とし、一定の知見、経験のある弁護士の起用を大前提としています。第三者委員会の調査を補助する「調査担当弁護士」の選任も可能としています。
第三者委員会の特色は、企業等から独立した委員のみによって構成される第三者委員会自身が調査し、原因を分析し、再発防止策を策定することにあります。
不祥事発覚の端緒としては、企業内部の通常業務ラインでの発覚、内部通報、(内部通報制度が十分に機能しなかった結果起こる)内部告発などがあります。
企業内部の通常業務ラインや内部通報を端緒として、企業等の内部で調査し、原因を分析し、再発防止策を策定すれば、その目的を達するというケースもあります。内部での調査が中立かつ公正に行われ、その結果に基づき社内的な処分、民事・刑事上の措置をとり、社内で再発防止策を策定、防止すれば、特に第三者委員会を設置し、公表まで必要はないというケースも当然あります。社内のセクハラ、パワハラ事案が通常はこれにあたるでしょう。内部調査では、経営陣の悪しき論理がまかり通ってしまう危険性があり、中立、公正が保たれないとの懸念に対して、たとえば内部通報の社外窓口として顧問弁護士など社外の弁護士の助言、指導のもと内部調査を実施する、あるいは社外の弁護士をもメンバーとするコンプライアンス委員会で調査結果を審議するという方策も考えられます。社外監査役や、社外取締役がその事案に接するならば、これら役員がよく機能すべき場面かもしれません。
しかし、ある不祥事が組織ぐるみであり、経営陣、とりわけトップの関与も疑われるようなケースでは、内部通報によって不祥事に関する情報が経営陣に仮に届いたしても、そこで黙殺され、あるいは中立公正な調査がなされなければ、それ以上自浄作用の発揮のしようがないことになります。第三者委員会設置が適切な一つのパターンといえます。
多額の横領が発覚し、あるいは製品事故として拡がる恐れがあるなど社会的なインパクトが予想される事案では、中立公正を担保するために、第三者委員会設置が適切なケースもあるでしょう。
組織ぐるみか否かに関わらず、外部の行政または捜査機関やマスコミへの内部告発等をきっかけとして、自主的な公表ではなく外部から不祥事が発覚して、社会問題化してしまったときには、自浄作用が働いていなかったことは明白ですので、第三者委員会の設置が当然に検討されることになるでしょう。全柔連、みずほ銀行などのケースがこれに当たるといえそうです。このことは一般的に第三者委員会が、既に社会問題化してしまった後で設置されることが多いことからも分かります。その意味では、企業等の信頼は一旦失墜してしまっていますので、これを回復するには第三者委員会の設置が当然求められることになります。
ちなみに阪急阪神ホテルズの例では、他社事例をきっかけに社内の自主調査で発覚したことを公表するに至ったわけですが、社会的なインパクトを過小評価していたこと、「偽装ではなく誤表示」としたことが原因分析の点で適切とはみなされなかったことから、大いに社会問題化し、第三者委員会を設置せざるを得ない事態に追い込まれたといえます。
また、有価証券報告書等の虚偽記載があるなどの不祥事の場合に第三者委員会が設置されることが多く、日弁連のガイドラインに則り、独立性が確保された同委員会による調査が期待されているようです。株主、投資家のみならず市場の健全性維持にも関わるので、内部調査にとどめるべき事柄ではないといえます。
なお、内部情報によって経営陣が不祥事に関する情報に接し、あるいは一定の初動調査的な内部調査がなされ、一定の事実認定を社内でした結果、経営陣の判断として、第三者委員会の手に委ねることが適切だとの判断に至るということも十分にあり得ます。
このように第三者委員会は、その不祥事発覚の経緯、あるいは事案の性質上、それが設置された段階から、関係するステークホルダーへの説明責任を当然に負っており、その調査結果をステークホルダーに公表することが求められています。どの範囲のステークホルダーに対して調査結果を開示するかは事案によりますが、冒頭で列挙した事例の多くにおいて、社会問題として一般市民(消費者、投資家、国民としての地位などから)にも関心ある事柄として、調査報告書がホームページでも公表されています。そのことによってステークホルダーからの信頼を回復することが求められます。第三者委員会による調査報告書のなかで、再発防止策の一環として、顧問弁護士を社外窓口とする内部通報制度の充実を指摘するものもあります。
第三者委員会であっても、調査に強制力を伴うものでないので限界を超えられないとの指摘を受けることもありますし、一定期間、一時的に設置されることから企業内の事情を掌握しきれないとの内在的な制約があるかもしれません。調査費用は弁護士のタイムチャージとなるため、対象となる調査の範囲が広ければ、それだけ作業量も増え、コストも相当かかってきます。
やはり第三者委員会がどれだけ有用であったとしても、それは不祥事が社会のなかで認識されてしまった後の非常手段であるとはいえます。第三者委員会という非常手段が選択肢として最後に存在することは視野に入れつつ、通常の業務のなかで一定のコスト、労力をかけて通常業務ラインでの部署内解決に努め、その補完措置として内部通報制度を活性化することは極めて重要であると考えます。