<ポイント>
◆中間管理職は内部通報制度より勝る「部署内解決」を目指すべき
◆部下から、何でも話せる上司、秘密を守ってくれる上司、と思われること
◆内部通報事務局による事実調査は中間管理職の協力なしではできない
コンプライアンス経営の観点から、会社や組織における中間管理職の役割はきわめて重要です。経営幹部や監査役等が直接現場における不正行為やコンプライアンス違反事象を発見できることはまれです。現場が見えている、また見えていなければならないのは中間管理職です。
その意味で、コンプライアンス経営の重要ツールである内部通報制度に関しても、中間管理職はキーマンであると言えます。
今回はその中間管理職の立場・視点からのQ&Aを取り上げます。
Q1 私は課長の職にありますが、私のような中間管理職は内部通報制度とどのような関わりをもつのでしょうか。
A 次の4つの関わり方があると思われます。
①自分の課においてある課員が不正行為等を行い、それについて別の課員が内部通報(内部通報窓口に対し)を行った場合。
②自分の課においてある課員が不正行為等を行い、それについてほかの部署の社員から内部通報がなされた場合。
③自分の課またはほかの部署において不正行為等が行われていることを自ら発見し、内部通報を行おうとする場合。
④上記①・②の場合を含め、内部通報があり、その事実調査のために、内部通報事務局から協力を要請された場合。
Q2 私の課においてある課員が不正行為を行い、それに気がついた別の課員が私にそのことを報告してきました。これも内部通報ですか。
A それは内部通報とは言いません。通常の業務ライン上での問題解決方法で、「部署内解決」と言います。
内部通報とは、この通常の業務ラインとは別のルート(いわばバイパス経由)によって内部通報窓口(社内と社外があります)に寄せられる通報のことを言います。
ある部署に問題が発生した場合、とくに不正行為が行われたときは、通常の業務ラインによって、つまり「部署内解決」によって解決されるのが本来の姿です。コンプライアンス事務局などが動き出す前に、その部署の管理職が中心になって自浄作用が働き、早期に問題解決が図られるのが理想の形です。
但し、「部署内解決」が可能となるためには、いくつかの条件が必要です。中でも重要なのはキーマンとなる管理職の資質と目配りです。
Q3 私の課のある課員が不正行為を行い、それを発見した別の課員が私に報告も相談もせずに内部通報を行いました。どう考えたらよいでしょうか。
A 本来なら直属の上司であるあなたにまず報告・相談し、早期、効率的に部署内解決が図られるべきでした。
通報者がそうしなかった理由として考えられるのは、
1.通報者は自分が発見者であることを隠したかった。その場合でも2つのケース考えられ、課長にも知られたくなかった。または、課長は秘密を守ってくれないと思った。
2.その不正行為は課長であるあなたが承知のうえで、またはあなたの指示で行われたという疑いをもった。
3.あなたに告げてもまともに取り合ってくれず、かえって自分に冷たい目を向けられはしないかという不安を抱いた。
などが考えられます。
あなたの側に反省すべき点があったかもしれません。
Q4 「部署内解決」には課長としてどういう点を心がければよいでしょうか。
A 要は管理職と部下との信頼関係の構築です。
何か問題があったとき、課員がすぐに課長に相談できる、そのような風通しのよい職場の雰囲気を日常的に作ることです。そして、本人が秘密にしてほしいことはそれを尊重すること、些細な報告・相談でも真摯に聞き取り、迅速、適切に対応することです。
また、日頃から次のようなメッセージを発することも必要です。「もし私に言いにくいことがあれば、私の上司の部長に話してくれ。そうすれば、他部署を煩わすことなく部署内で問題を解決することができる」と。
これも「部署内解決」の一環であり、その部署における自浄作用が発揮されたものと評価されることになります。
なお、仮に部下が内部通報を行ったときでも、それを批判したり、犯人探しをしたり、嫌がらせをしたり、そのことで悪い評点を付けたりしてはいけません。決定的に信頼関係を壊し、雰囲気の悪い職場環境に変化します。
Q5 私の課の社員が不正行為を行っている模様です。問題が重大で他の部署の社員も関与しているようです。私はどのように行動すればよいでしょうか。
A とりあえずあなたの上司(部長など)に相談するとともに、社内通報窓口(内部通報事務局)にも通報すべきです。
問題が重大で関係部署が多いようなときは、早い段階で内部通報事務局の関与を求め、幅広い横断的連携のもとに事実調査を行う方が効率的です。
内部通報事務局は組織上通常コンプライアンス部門と直結しており、取締役や監査役、顧問弁護士などとの協同のノウハウも持っています。事実調査の過程を見ながら対外的公表などの措置についても遅滞なく対応することができるはずです。
Q6 ある内部通報案件について、内部通報事務局から事実調査についての協力要請がありました。どのように対応し、どういう点に留意すべきでしょうか。
A 誰から聞き取り調査を行うのが適当か、アドバイス、提案をしてあげてください。また、聞き取り調査の対象者や聞き取り内容を他に漏らさないようにしてください。
事実調査の中心は関係者からの聞き取り調査です。内部通報事務局は調査対象部署の人的関係をくわしくわかっていないことが多く、その部署の管理職に、適当な聞き取り調査の対象者や場所、時間などについてアドバイスや意見を求めてきます。また、聞き取り調査そのものも同管理職が当たってくれるよう、また協同して当たってくれるよう委嘱することも多いと思われます。
その際注意すべきは、聞き取り調査の対象者の名前やその聞き取り内容を内部通報事務局以外の社員(上司も含め)や役員等に漏らさないことです。被通報者については別ですが、もし嫌疑がなくなった場合は同様です。
そのルールと信用があってこそ、事実調査が適切、効率的に実施することができるのです。
内部通報案件にかかる事実調査の協力者も一定の守秘義務を負うことが内部通報規程などに明記されているのはそのためです。