<ポイント>
◆就業規則に出向規定があっても出向者の個別同意が必要
◆出向料を含めた役員報酬総額が出向先の定款・株主総会決議の範囲内か確認を
◆出向料も定期定額で支払う必要あり
親会社の従業員が子会社に出向することがあります。最近大ヒットしたテレビドラマでも主人公が子会社に出向を命じられるシーンでドラマが終わりました。
子会社だけではなく、他社との合弁会社、出資先、取引先などの関係会社や関係団体、関係官庁等に出向することもあります。
出向という言葉は労働基準法や民法、商法、会社法などの法令の中で使われているわけではなく、その定義は必ずしも明確ではありません。ただ、一般的には従業員が雇用先である会社(出向元)に在籍したまま、子会社や取引先等の会社(出向先)において相当長期間にわたり従業員または役員として業務を行う形態といえると思います。
出向先では従業員になることが多いでしょうが、役員になることもあります。就業規則または社外勤務に関する協定で「出向とは、関係会社,関係団体,関係官庁等に役員または従業員として勤務することをいう。」と規定している例もあります。
しかし、役員として出向する場合には、従業員として出向する場合とは異なる法律問題が生じることを理解しておかなければなりません。
なお、出向元に籍がなくなる(出向元を退職する)形態の出向(いわゆる転籍出向)も広い意味では「出向」に含む場合もありますが、転籍出向については本稿では除外して述べます。
出向元と出向先が出向者を出向先の役員にすることに決めたとしても、出向者が出向先の役員になることについて同意が必要です。
出向先の従業員として出向させる場合にも出向者の同意が必要ですが、出向元の就業規則等に出向制度を明示して規定しておくなどの方法で出向者の同意に代替できる場合があります(どういう場合に代替できるかについては本稿ではふれません)。
これに対して、出向先の役員になる場合には、そのような規定があっても出向者の同意に代替することはできません。上記例のような就業規則等により出向先の役員になる場合を含めて包括的に出向の同意があったとしても、出向者を出向先の役員にする場合にはその度に出向者の同意が必要となります。
従業員の立場と役員の立場が混在する、いわゆる従業員兼務役員となる場合(たとえば取締役総務部長はこれに該当するのが一般的です)でも同様に同意が必要です。
これは、役員は従業員に比べて高度な義務を負うこと、役員と出向先とは委任契約関係となること、役員登記のために出向者の同意が必要であることが主たる理由です。
出向者の給与、報酬の支払方法は出向先と出向元間で結ばれる出向契約で決められますが、出向者は出向元から従業員として給料などを受け取り、出向先は出向元にそのうちの一部を支払うことがあります(この出向先が出向元に支払うものには「経営指導料」などの名称がつけられることがありますが、本稿では簡単に「出向料」といいます)。
出向料については、役員としての出向と従業員としての出向では異なる注意が必要です。
会社法では、会社の役員の報酬は定款で定めるか、株主総会で決議されなければなりません。ただし、取締役全員の報酬総額、監査役全員の報酬総額の上限額を株主総会で決議して、個々の取締役の具体的な額は取締役会、監査役の額は監査役または監査役会で決めることも可能であり、多くの会社がこの方法をとっています。
出向先は役員報酬ではなく、出向契約に基づく出向料を支払っているのですが、その実体は役員報酬であり、上記の会社法に従わなければなりません。そうすると、出向料を含めた全取締役または監査役の報酬総額が株主総会で決議された上限額以内でないと会社法に違反することになります。
子会社や孫会社に出向する場合など小規模な会社に出向する場合などは出向先の法務部門も充実しておらず、役員報酬についての株主総会の決議がされていない場合があります。
また、決議されていても相当以前にされたために、その額は出向料を含めた全取締役または監査役の報酬総額に足りない場合もありますので確認が必要です。
役員として出向した者に出向元が賞与を支給するなど毎月の給料額とは別に支給があり、その全部または一部を出向先に対して出向料として請求することもありますが、これも検討が必要です。
これらも出向先にとっては役員報酬とするべきなので、上記の株主総会で決議された額を逸脱することになれば会社法違反となります。
さらに、役員報酬は、その支給時期が1か月以下の一定の期間ごとに同額の支給をする場合など一定の場合でないと損金処理ができず(上記を「定期同額給与」といい、その他に「事前確定届出給与」、「一定の利益連動給与」がありますが詳細は割愛します)、これは出向料にも適用されます。
そのため、出向先が負担する賞与額などを12ヶ月に均して定期同額の出向料を支払うなどの対応が必要となってきます。
また、出向元に対して支払いを遅延した場合、後で遅延した額を支払った場合でも定期同額の支払いとならず、出向先で損金処理ができない場合があるので注意が必要です。