オリンパス事件の教訓
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<ポイント>
◆内部通報を行ったことを理由とする不利益処分、嫌がらせは許されない
◆公益通報者保護法の適用がなくとも上記の点は同様である
◆内部通報に対する対応に企業の体質が表れる

前回は内部通報者への不利益処分・嫌がらせに対する対応について解説しましたが、関係する最近の裁判例としてオリンパス事件があります。
取引先からの引抜きを行っていることを問題視してオリンパスの従業員が内部通報を行ったところ配置転換を命じられたというケースです。通報を行った従業員は、配置転換が業務上の必要性を欠き、あるいは通報者への報復目的でなされた濫用的なものであるとして訴訟提起しました。請求内容は配置転換先で就労する義務がないことの確認と、配置転換とその後の処遇を理由とする損害賠償請求です
この事件では誰が内部通報したのかを通報窓口(コンプライアンス室)の担当者が通報者の上司に知らせてしまったこと、訴訟係属後に会社側がさらに2回目、3回目の配置転換を命じていることも特徴的です。

第一審(東京地裁)は業務上の必要に基づいて配置転換がなされているとし、また、通報内容が公益通報者保護法上の通報対象事実にあたらないとして従業員側の主張を退けて請求棄却しました。

これに対して控訴審(東京高裁)は事実経過から内部通報者に対する制裁として配置転換がなされたものと認定して従業員側の請求を認めました。(ただし賠償請求については一部認容)
こうした判断に関係する事実経過としては、前回の人事異動の半年後に本件の1回目の配置転換がなされていること、原告従業員が内部通報を行って間もない時期に配置転換がなされたことが判決中で指摘されています。
また、2回目、3回目の配置転換についても1回目の配置転換に引きつづく一連の処分として濫用的との判断がなされています。
逆転敗訴となった会社側が最高裁に上告しましたが、最高裁でも控訴審の判断が維持されています。

内部通報を行ったことを理由として会社が従業員(通報者)に対して不利益処分、嫌がらせを行うことが断じて許されないことはこれまで本連載のなかで解説してきたとおりです。解雇、配置転換など文字通りの「処分」のほか事実上の嫌がらせも許されません。
オリンパス事件では配置転換のほかにも、会社が通報者に「○○君教育計画」などとしてあえて生産性の低い作業をさせるなどしており、この点も不法行為を構成するものと認定されています。

この事件では通報窓口の担当者が通報者の氏名を明らかにしてしまったために制裁的な配置転換がなされており、この点も見逃すことができません。
オリンパスの内部通報規程においても通報窓口の担当者には守秘義務が課されており、担当者の対応は明らかな規程違反です。通報窓口の担当者自身が規定を理解せず、あるいは軽視していたのです。
通報者と通報窓口担当者との信頼関係がなければ内部通報制度は機能しません。制度の生命線ともいえる部分がオリンパス事件では欠けていました。

また、オリンパス事件における通報内容については、第一審も控訴審も、公益通報者保護法上の通報対象事実となる不正競争防止法違反をいうものではなく企業倫理上の問題行為を指摘するものと位置づけています。企業倫理上のことであれば公益通報者保護法上の通報対象事実にはあたらず、同法による保護はありません。
公益通報者保護法については、適用要件が厳しすぎるため通報者に対する保護の範囲がせますぎるという指摘が立法当時よりなされています。
この指摘自体は正しいものですが、公益通報者保護法の適用があろうとなかろうと濫用的な解雇や配置転換が許されないという点を改めて確認しておきたいと思います。こうした「処分」のほかに事実上の嫌がらせ、パワハラが許されないことも当然です。

最後にもう一点コメントしておきたいのは、不祥事を認識した後の事後対応についてです。
今回紹介したオリンパス事件は報道でもとりあげられ、同社による損失隠しの件とも相まって単発の不祥事という以上にオリンパスという企業の体質そのものに問題があるのではないかという不名誉な評価を受けることとなりました。
不祥事を認識した後の事後対応がまずければ、それ自体が二次不祥事、三次不祥事となって企業の評価を損なうのです。