消費税転嫁対策特別措置法を使いこなすには(その2)

<ポイント>
◆納入先は本体価格での交渉を拒んではいけない
◆公正取引委員会への調査協力などを理由とする報復措置はそれ自体禁止
◆転嫁や表示の方法に限り主に中小企業で構成されるカルテルが認められる

前回は納入業者側が、納入先から消費増税分の転嫁を拒否される場合として、消費税転嫁対策特別措置法によって禁止されるケースを、価格交渉の前後に応じてご説明しました(前回分は2として後掲しています。)
今回はそのような違法事例に対して納入業者側がどのように対抗するかという点からご説明します。

まず価格交渉の場面において、納入業者側が消費税抜きの本体価格で交渉することを求めれば、納入先はこれを拒否できません。
消費税込みの価格で交渉するならば、それが本体価格についての交渉をしているのか、単に増税分の転嫁が拒否されているのかがはっきりしません。結果として「増税分の転嫁を拒否しているわけではない。あくまで本体価格についての値引きの話をしている。」といった言い訳を許してしまうことになりかねません。
本体価格に対象を絞って交渉することができれば、それが原材料価格の低下など合理的な理由があるのかないのかが明確となり、増税分は交渉後の本体価格に上乗せすればよいだけ、逆に、その上乗せがなされなければならないので、買いたたきを防ぐのに役立ちます。
納入業者側が本体価格と消費税額を別々に記載した見積書を提出したのに対し、納入先が、総額のみの見積書に直して再提出させるような場合が禁止されます。
納入先が総額のみ表示の見積書の様式を納入業者に使用させるような場合も同様です。

価格の減額、買いたたきなどによって消費増税分の転嫁を拒否された場合、納入業者は公正取引委員会等の書面調査等に応じてその違反事例について情報提供することができます。
公正取引委員会等は、納入先の業者に対して転嫁を拒否した消費税の支払い、増税を認める見返りで得た利益の返還、再発防止策の策定などを指導することができます。
公正取引委員会がその違反事例を認知したときには、当該業者に速やかに「勧告」をすることとなり、かつ、その旨を「公表」することになります。
主務大臣(監督官庁)は、違反行為が、多数に対して行われていたり、不利益の程度が大きかったり、繰り返し行われる蓋然性が高いときは、公正取引委員会に必要な措置をするよう必ず請求しなければなりません。
最終的には公正取引委員会からの「勧告」かつ「公表」が控えているので、納入先には相当程度プレッシャーになると思われます。
納入業者からすれば、公正取引委員会に被害を報告したり、調査に積極的に応じることで、違法行為の是正、被害の回復を図ることができます。

とはいえ報復措置を恐れて納入業者側からそのような情報提供などできないという危惧もあります。
しかし、この点については違法行為に関する情報提供がなされたことで納入業者への取引量の減少、取引停止などの報復措置をとること自体が特別措置法によって禁止されています。当然、そのような違反についても、これを公正取引委員会が認知したら、「勧告」「公表」することとなります。

ちなみに納入先側からすれば、この「勧告」に従えば、それ以上に独占禁止法上の排除措置命令、課徴金納付命令(優越的地位の乱用を理由とするもの)は受けないという、「アメ」も与えられています。
特別措置法を適用しうる場合は、独占禁止法(優越的地位の乱用)や下請法に優先して適用されますが、特別措置法が適用できないケースでは、これらの通常の法律が適用されます。
納入業者側または下請け業者が、消費税増税に関連して、納入先から受領拒否を受けたり、不当返品を受けたりしたときは独占禁止法や下請法の適用が検討されるべきです。

納入業者には以上のような対抗手段が与えられていますが、中小企業が個別に対応していたのでは、納入先との力関係によって抗しきれないかもしれません。
そこで、特別措置法は、その構成者の3分の2を中小企業やその団体が占めるならば、一定のカルテルを締結することを特別に認めました。
ここでいうカルテルとは「転嫁カルテル」と「表示カルテル」であって、本体価格についてカルテルを結ぶことは当然認められません。
消費税額を上乗せする旨の決定、上乗せ後の金額を四捨五入等の合理的な範囲で処理するとの決定であり(転嫁カルテル)、消費増税後の価格について統一的な表示を用いる旨の決定(表示カルテル)です。
後者に関しては、税込み価格を表示するならば、税込み価格と消費税額を並べて表示するとか、税込み価格と税抜き価格を並べて表示するなどです。
税込み価格を表示しない場合に、「+税」とするのか、「消費税は別途いただきます」とするのかなどの表示に関して統一的に決定することができます。

このようなカルテルを締結するには、事前に公正取引委員会にその内容を届け出なければなりません。届け出の様式も定められています。
中小企業の範囲は業種によって従業員・資本金規模で定められています(卸売業ならば、従業員100人以下または資本金3億円以下)です。
カルテルが複数の企業間で結ばれるならば、その3分の2が中小企業でなければなりませんし、団体において結ばれる場合も同様です。
○○連合会という団体ならば、その傘下の団体がそれぞれ3分の2以上の中小企業で構成されていなければなりません。
カルテルが認められるのは平成26年4月1日から平成29年3月31日までの間の納入を対象としています。
この間の納入に関するものであれば施行日の平成25年10月1日以後に締結されるカルテルがこれに含まれます。
すでに日本産業・医療ガス協会が公正取引委員会に届け出をしており、今後も広がる見込みです。

以上、納入業者側が転嫁拒否に対し、個別に、または、他社と共同して、対抗する手段を見てきました。
納入業者、特に中小企業は、消費増税後もこのような手段を駆使して、自社の経営を守っていく必要があります。