<ポイント>
◆内部通報制度の活性化のためにも通報者を不利益から守ることが必要不可欠
◆不利益などの加害者となるのは、会社、直属の管理職、職場の同僚などである
◆会社の場合は監査役、管理職はその上の管理職、同僚の場合は管理職がキーパーソン
前回、内部通報に関する事後のモニタリングについて述べましたが、今回はモニタリングの結果、内部通報者が何らかの不利益処分や嫌がらせを受けていることが判明した場合、それにどう対処すべきかについて解説します。
通報者が何らかの不利益を受ける場合、誰がその加害者となるかによって次の3つのパターンに分けられます。
1 加害者が会社そのもの、つまり会社の意思として通報者に対し不利益処分を行う場合。
2 通報者の直属の管理職が行う場合。
3 職場の同僚が行う場合。
1に関しては、「オリンパス事件」が有名です。内部通報した社員を不当に配置転換したということで裁判になり、会社側が敗訴しました。
会社の経営トップ(取締役など)が、内部通報がなされたことを快く思わず、通報者に対しそのことを示し、報復する意図で、また、ほかの社員がこれに習って内部通報を行わないための牽制(見せしめ)の意図で通報者に不利益を与えるものです。
本人の意に反する不当な配置転換や、退職勧奨・解雇などの形をとります。
しかし、不純な動機に基づく虚偽の通報等であれば格別、そうでない内部通報に対し会社幹部が不快感を持つこと自体が時代錯誤であり、そもそもコンプライアンス経営を目指そうとする経営者の資格がありません。
2は、会社(経営トップ)の意思ではないが、直属の管理職が、自分の部下が内部通報を行ったことに反発して、その報復として通報者に何らかの不利益を与える場合です。
その管理職自身の行動が問題にされたときなどはその動機が強く働きます。通報者の仕事の内容や量を本人の意に沿わないように変更したり、人事考課で不当に評価したり、今まで問題にしなかったような通報者の言動を叱責するような行動に出ます。ほかの部下らがそれに同調するように扇動する場合もあります。
このような管理職の態度は内部通報制度やコンプライアンス経営の趣旨・目的を理解しないもので、管理職の資格はないというべきです。
3は、会社の意思でも、管理職の意思でもないのに、同じ職場の同僚社員が通報者に反感を覚え、嫌がらせやいじめを行うというパターンです。例えば、無視、悪口(最近では職場内に限らずFacebookやLINEなどのソーシャルネットワークによるものもあります)、職場の飲み会などに通報者だけを誘わない、仕事に必要な情報を与えない、仕事を回さない、など。
同僚社員が内部通報に対し反感を覚えるという意識自体が問題であり、それを指導せず、管理監督を怠っている管理職に問題があります。
モニタリングなどによって、内部通報者がこのような不利益を受けていることが判明した場合には、速やかにその是正・救済措置をとらなければなりません。
再三述べているように、内部通報制度の活性化のためには通報者を不利益から守ることが不可欠です。そうでなければ、会社内の違法・不当なできごとを察知することがあっても、誰も声を上げることをせず、「見て見ぬふりをする」という悪しき社内風土ができあがってしまいます。
それでは、上記のような不適切な事象に対してどのように対処すべきでしょうか。
上記1のパターン
これは言わば「会社ぐるみの違法行為」であり、もはや内部通報制度の範疇ではありません。企業自体が自浄能力を失っている事態です。
従って、通報者はもはや「内部告発」として外部に向けて訴えるか、会社に対し自分が受けた不利益の回復や救済を求めて民事訴訟を提起するほかありません。
ただし、大まかに言って、会社には業務執行を行う取締役とその行為を監視する監査役があります。監査役は独立の立場から取締役の違法行為などを監視します。従って、不適切な業務執行が行われても、それを監査役が知ったときは、監査役の権限と責任においてそれを制限したり、禁止したりすることが可能です(オリンパス事件その他で必ずしも監査役がそのように機能しなかった事例も少なくありませんが)。
内部通報制度に関しても、監査役がコンプライアンス委員会の委員に入っている場合や、内部通報事務局が内部通報に関する報告書を提出する名宛人に監査役が含まれている場合もよくあります。
従って、不利益を被っている内部通報者としては、内部通報事務局のモニタリングに協力することのほか、その事実を監査役に宛てて内部通報する道は残されています。
上記2のパターン
内部通報制度の意議や目的を理解しない管理職が存在するということは、その人物の認識欠如か、適性欠如か、会社の教育不足です。
そういう管理職に対しては、本人に反省を求め、報告書(反省文)を提出させるとともに、さらなる教育を施す必要があります。加えて、そのいう管理職はその上位の管理職によって監視・監督されなければなりません。
第3のパターン
同僚社員の不適切な行為に対処する責任の大部分は直属の管理職にあります。その権限と責任において日常的に部下を監視・監督する必要があります。
そして、第2、第3のパターンにおける対応策に関しては、内部通報事務局が、その後通報者に問い合わせするなどして、その実効性を引き続きモニタリングする必要があります。