<ポイント>
◆寄与分が認められるためには「特別の寄与」が必要であること
◆寄与行為がある身分関係において通常期待される程度を超えることが必要
◆他の相続人は比較対象にならない
1 はじめに
相続に関する法律相談、事件処理にあたって、「寄与分」について質問を受けることがよくあります。寄与分の制度とは、簡単に言えば、ある相続人が被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与(≒貢献)をした場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度のことをいいます。寄与分が認められるための要件はいくつかあるのですが、そのうちの1つに、上記のとおり「特別の寄与」という要件があります。理解の難しい概念であり、誤解している方も多いため、本稿ではこの要件について解説をします。
2 寄与行為が通常期待される程度を超えること
上記のとおり寄与分が認められるためには、「特別」の寄与が必要とされています。何故わざわざ「特別」という修飾語がついているのかを考えると、この要件について理解しやすくなります。
民法上、夫婦には相互に協力及び扶助する義務があります。また、直系血族(典型的には親子)及び兄弟姉妹には、相互に扶養の義務が存在します。このように、相続人と被相続人との間の身分関係においては、相互に扶助・扶養の義務が存在するのです。
そのため、相続人が何らかの寄与行為をしたとしても、それが相続人と被相続人との間の身分関係において通常期待される程度の行為にすぎない場合には、単に上記の義務を果たしたにすぎないといえます。
そのため、「特別」の寄与が認められるためには、相続人と被相続人との間の身分関係において通常期待される程度を超える寄与行為が必要になります。なお、上記では扶助・扶養義務と一括りにしましたが、当然のことながら、兄弟姉妹→親子→夫婦の順に義務は大きくなります。このことに対応して、上記の通常期待される程度というのも、兄弟姉妹→親子→夫婦の順にハードルが高くなります。
3 他の共同相続人が比較対象にならないこと
この点に関して誤解されがちなのは、他の共同相続人と比較してより多くの寄与をしたからといって、特別な寄与と認められるとは限らない、ということです。例えば、被相続人に子が二人いて、子Aは被相続人と同居していたが、子Bは音信不通であったとします。このような状況において子Aが被相続人の身の回りの世話をしている場合、子Aとしては子Bよりも相続において優遇されたいとの気持ちを抱くのが自然でしょう。しかし、このような場合においても、必ずしも子Aの寄与行為が特別な寄与と認められるとは限りません。子Aの寄与行為が特別な寄与と認められるためには、あくまで一般に親子において通常期待される程度を超えた寄与行為が必要になります。子Bは比較対象にならないのです。
4 小括
以上のとおり、特別の寄与の有無を判断するにあたっては、ある身分関係において通常期待される寄与行為がどの程度かを想定したうえで、ある相続人の寄与行為がそれを超えているかどうかを判断する必要があります。また、その寄与行為を裏付ける証拠の有無についても判断が必要です。
このように、寄与分の有無の判断は容易ではありません。寄与分の主張を検討している方も、他の相続人から寄与分を主張された方も、まずは弁護士に相談することをお勧めします。