離婚後の共同親権が可能に
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<ポイント>
◆現状は離婚すればどちらかの親のみが親権を持つ
◆DV・虐待のおそれがあるケースは単独親権
◆子どもの利益に反することにならないか危惧される

離婚後の共同親権が可能となる改正民法が2024年5月17日に成立しました。2026年までに施行されることになっています。
なお、現行制度では、離婚後は、父母どちらか一方を親権者にすると規定されており、共同親権は選択できません。

親権者は、子どもの利益のために、身の回りの世話や教育を行ったり、財産を管理したりする権利と義務を負います。具体的には子どもの学校の入学の手続きなどの契約を親権者として行ったり、子どもが相続人になった場合に親権者として代わりに意思決定を行ったりします。子どものパスポートの申し込みのときに親権者として署名された方もおられるのではないでしょうか。
今回の改正では、離婚時に父母が協議して、「共同親権」か「単独親権」かを選び、協議で折り合えない場合は、家庭裁判所が判断する。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがあれば、どちらかの単独親権と定める、としています。

この新制度について肯定的にとらえる意見もあります。
例えば、(1)今の民法では、離婚した場合、父母どちらか一方の単独親権となるため、親権のない方が子育てに関与しづらくなるほか、養育費を払わないなどの責任の放棄につながることも少なくない、(2)単独親権であれば、親権をめぐって、裁判が長期化し離婚の際の争いが先鋭化するケースがある、(3)離婚しても親子であることに変わりないのであるから子どもから親のどちらかを取り上げるべきではない、などです。
確かに、現在では父親が積極的に育児にかかわるケースが多く、離婚したとたんに子どもに会えなくなることもあるため共同親権の導入を希望する背景は理解できます。

一方で共同親権に反対する意見もあります。
例えば(1)基準をすりぬけて、DV・虐待の加害者に共同親権が適用されることが危惧される、(2)離婚後も、差し迫った場合を除いて子どもの進学や医療、転居などには双方の親権者の合意が必要になる。このため合意を盾に、子どもと同居する親が別居しているもう一方の親に支配されるおそれがある、などです。
私も現時点での共同親権導入には賛成できません。
もちろん離婚しても双方が共同して養育することが望ましいことについては全く異議がありません。しかし、現実にはものの考え方や価値観、細かい日常的なことなどについて意見が合わず離婚に至るケースが非常に多いのです。だからこそ離婚して家族としての関係を解消するのに、価値観が多様化している現代において子育てという人生における重要事項について意見をすり合わせて共同で意思決定していくというのは非常に困難ではないかと思います。
DVや虐待というケースに共同親権が向かないのは当然ですが、そうでないケースでも離婚後に子に関する適切適時な意思決定が困難ないし不可能である場合は決して少数ではないと思います。
なお、どのような場面で両親の同意が必要かについては、政府は法律の施行までにガイドラインを示すこととしています。
現時点では、学校等の選択、進学か就職かの選択、転居先の決定、生命にかかわる医療行為などが父母の同意が必要な行為とされており、例外として「子の利益のため急迫の事情がある場合」や「教育に関する日常行為」は単独で判断することができるとされています。
しかし、その基準がわかりづらいため、子と同居する親の負担やこれに対応する学校や医療機関の不安・負担が増すことが強く危惧されます。

養育費については、共同親権だから払うようになるというものではないでしょうし、現行の単独親権制度のもとで不払いの状態が多い点については別途解決を図るべきです。
単独親権であれば離婚の際に争いが激化するから共同親権に、という考え方は問題の先送りに過ぎずかえって子の福祉に反するのではないかと思います。

離婚は少なからぬ人が経験するものであり、かつ離婚後の子どもの養育を誰がどのように行うのかは、日常的な生活にかかわるもので、利害関係を持つ人が多い事柄です。
子どもに関する重要なことをいつまでも合意できない場合どうするのか、などの誰でも思い浮かぶような問題について全く決められていないまま共同親権ありき、で民法が改正されたことにはおおいに疑問があります。

国会審議でもこういった疑念が複数指摘され、そのため、付則を修正し、親権のあり方を決める際に父母の力関係の差で不適切な合意とならないよう「真意を確認する措置を検討する」という内容が付則に盛り込まれました。具体的にどのような措置となるかは今後、議論されるとのことです。 また、付則には、国が改正内容の周知に取り組むことや、施行5年後にさらなる見直しを検討する規定も盛り込まれています。

共同親権となったことにより苦しむ子どもがでないように、子の福祉に充分に配慮した仕組みが定められることを望みます。