執筆者:気まぐれシェフ
2024年04月15日

植物は再生する。
おなじみのところでいえばニンジンやダイコンのヘタのキッチンでの水栽培だが、「再生」「クローン」という視点からいうと熱帯系観葉植物が非常に簡単にそれを実感できる。
品種によっての差はあれど、基本的には10センチほどにカットした茎を水に挿しておくだけだ。
1~2週間で根を出しぐんぐん伸びてそれは花瓶の中でとぐろを巻く。茎は伸び葉を出し枝を分け、数ヶ月でクローンができあがるのだ。
茎からも根を伸ばす品種もある。新天地を求めたいのか、根から数センチ離れた先に別の花瓶を置くと翌朝には花瓶のフチにちょっと手(というか根)をかけている。ひと晩で2センチ以上伸びたことになる。生きる気まんまんなのはいいことだが、意欲が強すぎてちょっと怖い。

というわけで、私の出会った「生きる気強すぎな植物たち」のなかから本日は2種をご紹介したい。

1種目:花束に入っていたグリーン。つやっとした葉のどこにでもありそうな枝である。
1ヶ月経っても枯れないので造花だろうと棚の上に転がしておいたら、2ヶ月くらい経って少ししおれてきた。生きていたのか、と花瓶に戻したものの根が生える兆しはなく購入時の姿のまま5ヶ月が経過。
ある日、数枚の葉の裏側中央がぷっくり膨れているのを見つけた。それから数日後にとても小さな小さな紫色の花が咲いた。
根も出ていない枝の葉の中央、しかも裏側から5か月後に花。なんじゃこりゃ。「葉 裏 花 枯れない」で検索するとルスカスという植物だと出てきた。葉のようなものは「葉のように見える葉状枝」だそうで、葉状枝の表裏どちら側かに花を咲かせるらしい。
残念ながら根や種はできず再生させられなかったけれど、根もないのに5ヶ月も生き、うち2ヶ月は水も無く生き延び、最後に花を咲かせてしまう気合と体力。すごすぎる。
だけど。5ヶ月も変化をみせない枝の世話をし続ける奇特な人間はそうはいない。造花と思われさっさと捨てられる確率が高い。もうちょっと早くに花を咲かせたほうが生き延びられるのでは、と思う。

2種目:食べなくちゃと思いながら冷蔵庫に2週間ほど眠っていたチンゲン菜。
取り出してみるとなんだか縦に長い。根元にギュッと葉っぱがついているのが普通だが、葉と葉の間隔がやけに縦に広がっている。芯がめちゃめちゃ伸びているのだ。猫をにょーんと長く伸ばした姿をイメージしてもらえるとわかりやすいかも。チンゲン菜がにょーんと伸びているのである。葉を1枚ずつ剥がしていくと、芽吹いたばかりと思われる小さな葉がアスパラガスのハカマみたいな感じで芯にらせん状についている。まるでトーテムポールか芸術作品かと見まがう佇まい。面白いのでとりあえず花瓶に挿してみた。
するとこの芯、花瓶のなかで元気に育ちだした。眺めること1週間、芯がさらに伸び、小さかった葉が花びらのように大きく青々と広がりもはや「チンゲン菜」ではない。そして芯の先端に菜の花に似たかわいらしい黄色い花をつけたのである。
まったくに野菜としか捉えていなかったチンゲン菜に花が咲くなんて。冷え冷え冷蔵庫の中で花を咲かせる体力を保ち続けるなんて。淡い色をして柔らかそうでそんな風には見えないが意外とやる気にあふれていた。余談になるが、実は花も、チンゲン菜ばなといって美味しいらしい。

我々生命体の生きる目的が生きることそのものだとするならば、驚異の再生能力を手にした植物は人間よりもよほど高等な生物なのではなかろうか。
植物たちのこの強靭で貪欲な再生能力はすでに農業や医療など各界で研究が進められている。いつかこのメカニズムが解明され広い分野で応用されるようになれば、一瞬にして米や麦が育ったり、破壊された森林がよみがえったり、無くした指をまた生やしたり、細胞から分身を作ったり。宇宙で育つ植物ができれば他の惑星への移住なんて話も現実味を帯びてくる。SF映画みたいな世界が訪れる日はもしや近いのか。

そんな私の妄想を知ってか知らずか、我が家の再生植物たちは今日も生きる気まんまんにニョキニョキと育っている。