<ポイント>
◆株主からの書面交付請求に対して記載事項を省略するには定款変更が必要
◆バーチャルオンリー株主総会を導入する会社は定款変更の検討を
令和元年改正の会社法の相当部分は令和3年3月1日に施行されましたが、株主総会の招集通知の電子提供制度(会社法325条の2から6)は別途施行日が決められることになっていました。その施行日は「会社法の一部を改正する法律一部の施行期日を決める政令」によって2022年9月1日とされることになりました。
本稿では3月決算の上場会社を念頭に、2022年6月の株主総会に関する、必要または検討すべき定款変更議案について述べます。
上記電子提供制度の詳細についてはこのメルマガで連載した「令和元年会社法改正」の第1回で解説していますのでご参照ください。
同制度の概略としては、従来、招集通知として書面で株主に送付していたもののうち「株主総会参考書類等」(事業報告書、計算書類(単体・連結)及び株主参考書類)を、株主の個別同意を得ることなく電子提供することができるようになったものです。
また、株主は書面の交付請求をすることができますが、その場合でも、議案などを除く一定事項については定款で定めることにより株主に交付すべき書面から記載を省くことができます。
同制度の導入には電子提供制度をとる旨を定款に定める必要があり、「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」といいます)によって上場会社はその旨を定款に定めなければなりませんが、整備法と上記政令によって、上場会社は2022年9月1日にその旨の定款の定めがあるものとみなされます(これを「みなし定款変更」といいます)。
そのため、上場会社は、2022年6月の株主総会で定款変更の決議をしないでも、同日には電子提供制度の導入がされたことになります。会社に備置する定款も株主総会決議がなくとも書き換えることができるものと解されています。
しかし、株主からの書面交付請求に対する上記記載の省略についても定款で定める必要がありますが、これはみなし定款変更の対象となっていませんので、株主総会で定款変更決議が必要です。
多くの会社で上記記載の省略の制度も導入すると思われますので、結局、電子提供制度と併せて株主総会で定款変更の決議をすることになると思われます。
2022年6月の株主総会で定款変更議案を決議することとなった場合、その時点では未だ電子提供制度に関する会社法が施行されていませんので、経過規定が必要となります。
その内容として、電子提供制度の施行日から定款変更が効力を有することがあります。また、電子提供制度の導入によって、従来定款に規定されていた株主総会参考書類等のインターネット開示とみなし提供については定款から削除することになり、その効力発生も同様です。
ただし、整備法により上記2022年9月1日の施行日から6ヶ月以内に行われる株主総会については従前の招集手続きによることになっていますので、同株主総会については例外とすることになります。2023年6月の株主総会においては電子提供制度が導入されていますが、それ以前に臨時総会が開催される場合には上記が適用されることがあります。
バーチャルオンリー株主総会の採用を考えている会社については、定款変更を検討する必要があります。バーチャルオンリー株主総会の詳細についても「令和元年会社法改正」の第8回・特別編で解説しています。
バーチャルオンリー株主総会は「場所」の定めのない株主総会であり、改正産競法により2023年6月16日までは経済産業大臣及び法務大臣の確認を得て行うことができます。
しかし、同日以降にバーチャルオンリー株主総会を開く場合には、リアルまたはハイブリット型の株主総会を開催してバーチャルオンリー株主総会が認められるよう定款変更する必要があります。
多くの3月決算の上場会社が採用する2023年6月下旬を株主総会の開催日とする場合、その定款変更は2022年6月の株主総会での決議の検討が必要となります。
定款変更議案の他、2021年のCGコード改訂(詳細については2021年6月15日掲載の拙稿「CGコードの2021年改定について」(第1回)(第2回)ご参照))に対応した、取締役のスキル・マトリックスや指名・報酬委員会の権限・役割、活動状況の開示も検討する必要があります。