令和元年会社法改正(第2回)~議案要領通知請求権に伴う株主提案の制限について~
執筆者:
2021年12月01日
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<ポイント>
◆議案要領通知請求権の行使時に総会議案を提案できる数に上限設定
◆役員等の選任等について、議案の数え方のルールができた

株主が自らの考えを株主総会に訴えることができる重要な権利として、株主提案権があります。しかし、近年この権利が濫用的に行使される例もあり、これにより合理的な株主総会運営ができない(審議時間が無駄に取られる、招集通知等の印刷コストが増えるなど)という問題も生じています。
裁判例でも株主提案が正当な目的を有するものではない場合等は権利濫用として許されないというものもありますが、どのような場合がそれにあたるかは必ずしも明確ではありません。
そこで、改正法では、株主が提案できる議案の数という明確な基準でその権利行使を制約することにしたのです。以下の説明は取締役会設置会社である上場会社を念頭におきます。

株主提案権には、議題提案権、議案提案権及び議案要領通知請求権(株主が総会議案を提案しようとする場合に、その要領を他の株主に通知してもらえる権利)がありますが(その詳細は割愛します)、議案通知請求権の行使においてのみ数的制限が規定されました。
招集通知に記載された目的事項以外は株主総会では決議をする必要がないので、議題提案権、議案提案権の数的制限の必要性は乏しいためです。
改正法では議案要領通知請求権を行使する際、その株主が提案できる議案の数の上限を10に限定することにしました。
なお、この議案の上限を10に制限できるというのは、会社がそのように対応できるというものであり、10を超えて提案があっても会社がそれを受け入れることは可能です。ただし、ある株主の10を超える提案は受け入れて、他の株主は拒むとなれば、株主平等原則の点で問題になる可能性はあります。

10を超える議案が提出された場合、これをどう取り扱うかが問題となります。例えば、議題がA、B、C・・・K、L、Mと13個出た場合、このうち会社が拒む議案をどれとするかです。基本的には取締役が決めることになりますが、提案した株主が議案相互間に優先順位を定めている場合はそれに従うことになります。
また、議案数の数え方としては、原則として、議案が何を内容としているのかという実質面で判断することになります。これについては、明文で定められたものとして、役員等(取締役、会計参与、監査役または会計監査人)の選任・解任に関する議案、会計監査人を再任しないことに関する議案、定款変更に関する複数の議案があります。
役員等の選任・解任については、選任はまとめて1つ、解任もまとめて1つと、その議案に関する役員等の数によらずにカウントされます。例えば、現在の取締役3人を解任し、別の取締役3人を選任する議案は、計6つの議案とするのではなく、解任で1つ、選任で1つの議案となります。会計監査人の不再任についても、不再任対象の会計監査人が複数いても議案は1つです。
定款変更については、複数の議案で異なる議決がされると内容が相互に矛盾する可能性がある場合、これらを1つとみなすことになります。
今回の法改正での議論の中で、定款変更の内容において関連性のある事項ごとに複数の議案があると考えて議案数の制限を及ぼすべきとの点でおおむね意見は一致したようですが、どのように内容に関連性があると考えるのかは個別事情を踏まえ総合的に判断するしかないとの考えが示されました。
例えば、法的な不整合を回避するために複数の事項を内容とする必要がある場合などは比較的簡単に関連性を判断できるでしょう。このような経緯を踏まえ、内容が相互に矛盾するような場合は1つの議案とされました。

また、複数の株主が共同して議案要領通知請求権を行使した場合でも、各株主が提案できる議案の合計は10を超えることができません。株主A、B、Cが共同で権利行使して4個の議案を提案したとしたら、それぞれが4個の提案をしたことになります。そのため、例えばAが提案できる議案数は残り6個となります。
これは、A、B、Cが共同して初めて議決権保有数の要件(取締役会設置会社では総株主の議決権の1%以上、または、300個以上)をクリアできる場合でも、各人それぞれが議決権保有数の要件をクリアしている場合でも、同じであると考えられます。