執筆者:気まぐれシェフ
2008年12月15日

朝から血走った目をしているのは我ながらどうかと思う。
人より少し目が大きく白目部分が目立つのでなおさら困る。光が目にしみて涙が止まらないときもあるし、充血では済まず出血するときもある。かなりの不眠症なので、どうせ眠れないならと本や映画やパズルにネット三昧、仕事でもパソコンと向かい合う毎日。こんな生活だから充血もやむなしと、市販の目薬でだましだまし今までやってきた。しかし今年の夏、頻繁に出血するようになり、これはさすがにヤバいと眼科に駆け込んだ。
診断結果は重度のドライアイ。目を休めなさいとの忠告を受け診察は終了。

しかし、この話はこれで終わらない。事件はこの診察の前に起こっていた。

検査の際、ついでに視力検査をお願いした。検査方法は「C」みたいな形がずらりと並んだボードを右、左と答えていく例のアレである。私の自己申告により0.2のあたりからスタートした。
見える、答える。見える、答える。さらに下へ。見える、答える。ん??見えてる??破竹の勢いで、下から三段目まで来てしまった。
ええー!!ありえない段の「C」が見える!!これってすごくない?

しかし、浮かれ気分の私とは裏腹に白衣のお兄さんは冷ややかな態度。明らかに疑われている。半年前にかっこいいメガネを作ったばかりだと主張すると、そのメガネを見せてみろと言う。私のメガネは、哀れ、疑ぐり深いお兄さんによって度数を計る機械にかけられた。
「確かに…」とつぶやく彼。そして「あ。レーシックか」とひらめいたようだった。レーシックというのは、レーザーで眼球の角膜表面を削ってその屈折率を変化させ視力をアップさせる手術のことだ。が、違います、そんなことしてません。「じゃあなんでですか?」
わからないよそんなこと。専門家にわかんないものシロウトにわかるわけないじゃん。彼によると、視力が自然に回復するなどあり得ないらしい。しかも私のハードな生活環境では悪化することはあっても改善することは絶対ない、と失礼なほど強く否定された。彼はどうにも納得いかないようで、いつぞや流行ったコンビかよっと突っ込みたくなるほど「なんでだろー」と連発していたが、とにかく、視力は1.2まで回復していた。
お気に入りのメガネに未練は残るが、今になって衰えるどころか若返るなんて、これを事件と言わずして何という。当然、会う人全員に自慢した。
聞かれるのは決まって「何したの?」あまりに聞かれるので、ちょっと考えてみることにした。サプリメントも服用してないし、もちろん眼科や視力回復センターなんてところにも通っていない。…おおっ、目玉に違いない。

と書くと気味悪いが、ブリのアラ煮の目玉のことである。数ある魚の目玉の中でダントツピカイチの美味しさを誇る。
よく動かす部位や骨の周囲、内臓というのは得てして旨いものだ。肉で言えば頬肉やホルモン、軟骨にテール。肉食獣が獲物を襲って一番に食べるのは内臓である。そこに栄養と旨みがぎっちり凝縮されていることを彼らは知っているからだ(と勝手に信じている)。
今が旬のカニで言えば、身よりミソのほうが旨いのと同じである。カニがさほど珍しくない環境に育ったためかカニより断然エビ派の私は、カニミソにしか興味がない。ただし、甲羅ごとじっくり焼いて煮詰めたカニミソにざっくりほぐした身を混ぜたものは、さすがの私でも溶けそうになるほど旨い。味噌を少し混ぜてもいい。炊き立ての白飯の上にのせて海苔で巻くとさらに風味が増す。じゅる。
魚の場合も身よりアラが旨い。そのアラの王様が「目玉」なのだ。トロっと濃い旨みがチュワワーっと口いっぱいに広がっていく。しばらく瞳を閉じてその余韻にひたる私の頭の中では平井堅があの名曲を歌いだす。

体のどこかが悪いときにはそれと同じ部位を食べると治りが早いらしい。脚が悪いときにはモモや豚足、貧血気味ならレバー、肌トラブルにはぷるぷるコラーゲン。という理論でいけば、目が悪けりゃ目玉。そういえば去年の冬から春にかけて、仕事帰りにスーパーに通いつめ、ブリのアラ煮を作り食べ続けていた。ネコになったかと思うほど。本能的に必要なものを補っていたというわけか。私すごすぎ。
みなさんもいかがでしょうか。未知の美味しさに開眼するうえに、視力が回復し、さらには平井堅にまで出会えるかもしれない。

少し前に、大学時代から続いていた友情が壊れてしまった。少々事情のある人だったけれど本当に大好きでとても大切な人だった。私の人生に必要不可欠な人だっただけに心にあいた大きな穴はなかなか塞がりそうにない。長く一緒にいすぎていつの間にか勝手な愛情の押し売りをしてしまっていたようだ。ずっと息苦しく感じていたのかもしれないのになぜ気づけなかったのか。私がしてあげたいことよりも相手のしてほしいことを考えるべきだった。いくつ歳を重ねても、相手の立場に立って考え行動することは難しい。いつの日かまた友人に戻れると信じているが、その時には成長した私を見てもらいたい。こういう場合は何を食べたらいいのか。
とりあえずハツでも食べてみるか。まずは砕けたハートの修復から。