近年の経済活動の著しいグローバル化を背景とし、適正な課税・徴収の確保を図る観点から、国外財産を保有する方からその保有する国外財産に係る調書の提出を求める制度として、平成26年から「国外財産調書制度」が施行され、令和2年度税制改正で一部見直しがなされました。
1.制度の概要
(1)国外財産調書を提出しなければならない方
居住者(「非永住者」(注)を除く)の方で、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方は、その財産の種類、数量、価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の3月15日までに提出しなければなりません。なお、提出に当たっては、別途「国外財産調書合計表」を作成し、添付する必要があります。
(注)非永住者とは、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である方をいいます。
(2)国外財産
国外財産とは、国外にある財産とされていますが、国外にあるかどうかの判定は、財産の種類ごとに、その年の12月31日の現況で行います。具体的には、以下の通りです。
①動産又は不動産
その動産又は不動産の所在
②預金、貯金又は積金
その預金等の受入れをした営業所又は事業所の所在
③有価証券等
その有価証券等を管理する口座が開設された金融商品取引業者等の営業所等の所在
④保険金
その保険の契約に係る保険会社等の本店等又は主たる事務所の所在
⑤貸付金
その債務者の住所又は本店若しくは主たる事務所の所在
⑥特許権、商標権等
その登録をした機関の所在
⑦信託に関する権利
その信託の引受けをした営業所、事務所等の所在
(3)国外財産の価額
国外財産の価額は、その年の12月31日における時価又は時価に準ずるものとして見積価額によることとされています。ここにいう時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいいます。
主な財産の時価は以下①②、見積価額は③~⑤の通りです。
①動産又は不動産
専門家による鑑定評価額
②上場株式
金融商品取引所等の公表するその年の12月31日(最終営業日)の最終価格
③棚卸資産
棚卸資産の評価額
④事業所得等に係る減価償却資産
減価償却資産の償却後の価額
⑤上記以外の財産
その財産の取得価額や売買実例価額などをもとに合理的な方法により算定した価額
(4)財産債務調書との関係
国外財産調書を提出する方が、財産債務調書を提出する場合には、その財産債務調書には、国外財産調書に記載した国外財産に関する事項の記載は要しないこととされています。
2.令和2年度の主要な改正項目
(1)相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書の記載の柔軟化
相続開始の日の属する年の年分に係る国外財産調書については、その相続等により取得した国外財産を記載しないで提出することができます。なお、提出義務の有無の判定においても、当該国外財産は除外して判定することとなります。
(2)過少申告加算税等の加重措置の見直し
加算税等の加重措置の適用対象に、相続国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合が加えられました。
また、次のいずれかに該当する場合には、加算税等の加重措置は適用しないこととされました。
①相続国外財産を有する者(相続国外財産を除いても国外財産調書を提出する義務のある者を除く。)の責めに帰すべき事由がなく提出期限内に国外財産調書の提出がない場合
②相続国外財産を有する者の責めに帰すべき事由がなく国外財産調書に記載すべき相続国外財産についての記載がない場合
(3)過少申告加算税等の特例の適用の判定の基礎となる国外財産調書等の見直し
下記のいずれかに相続国外財産の記載がある場合には、軽減措置が適用され、全てに相続国外財産の記載がない等の場合には、加重措置が適用されます。
①被相続人の相続開始年の前年分の国外財産調書
②相続人の相続開始年の年分の国外財産調書
③相続人の相続開始年の翌年分の国外財産調書
(4)書類の提示等がない場合の過少申告加算税等の軽減措置及び加重措置の特例
国税庁等の職員から国外財産調書に記載すべき国外財産の取得等に係る書類の提示等を求められた場合には、当該職員が指定する日(求められた日から 60 日を超えない範囲内)までにその提示等をしなかったとき(その者の責めに帰すべき事由がない場合を除く。)における加算税について、以下の通りとなります。
①国外財産調書に記載があった場合、軽減措置は適用しない
②国外財産調書に記載がなかった場合、加重措置の加算割合を10%とする