私は、現在1歳6か月の男の子の母親です。
私が出産したのは、35歳の時なので、決して早い出産とはとはいえないのですが、晩婚化・少子化の傾向を反映してか、私のまわりの友人たちは子供のいない人が多いのです。
その友人たち(既婚者も含む)が口をそろえていうのが、「子供は欲しいとは思うけど、仕事の時間が終われば、完璧に自分のプライベートな時間、という生活に慣れてしまっているから、子供のいる生活は想像できない。(だから子供を産むことが具体化しない。)」ということです。
私も、子供は欲しいと思いながら、2年近くできなかったのですが、「別にそれならそれでいいなあ。仕事もおもしろいし・・・。」と、特に残念という気持ちでもなかったのです。
妊娠がわかった時も、真っ先に頭に浮かんだことは、その10日後に予定していた香港旅行に行けなくなるのではないか、ということでした(お医者さんの太っ腹な判断により、別にかまわない、とのことで、旅行には予定どおり行きました。)。
結局直前まで仕事をし(事務所には出産の20日ほど前まで出ていましたし、裁判所に提出する書面は出産の前日まで自宅で起案していました。)、出産後2か月で職場に復帰しました。
そのころは抱えていた事件数がかなり多かったこともあり、母になる喜びをかみしめる余裕はなく、いかにして仕事に支障を来すことなく産休に入り復帰するか、で頭が一杯でした。
子供が生まれてきてからの感想は、「育児ってこんなにおもしろいのか!!」ということです。
毎日朝起きてにっこり笑って「あー。」と言いつつ傍らの夫を起こしに行く様子や、好きな音楽にあわせて踊っている様子、私がお気に入りの絵本を手に持って「ねんねしようか?」と聞くとうなずいて先に立ってテケテケと寝室に向かう様、お父さんが一緒に寝ようとしないときは、お父さんを引っ張って一緒に寝ようと誘う姿など、疲れもふっとぶほどのかわいさであり、もうめろめろの状態なのです(賢明な読者のみなさんはご想像がつくでしょうが、別にほかの子供と比べて取り立ててかわいいと言うわけではなく、単なる親ばかです。)。
私の場合は、実母が全面的にバックアップしてくれており、仕事も続けられ、そのおかげで育児も楽しいと思えるのかも知れません。
しかし、想像していたこととあまりにも違うので愕然とすることもしばしばです。
子供が生まれる前は、親がきちんとしつけをすれば、いくら小さいとは言ってもそんなにお行儀が悪いはずはない、となぜか私は信じていたのです。
もちろん、もっときちんとしつけをすれば、もっとお行儀がいいのかも知れませんが、残念ながら、どうしてもお行儀のいい姿は想像できないのです。
雑誌をちょっと手の届くところに詰んでおくと、引っぱり出してまき散らす、いくら言ってもテーブルの上の急須をさわろうとする、食べ物やさんに行くと目を離した瞬間にお店の人を呼び出すボタンを押す、もうきりがありません。
このようなやんちゃな行動の全ての源泉は、好奇心に尽きます。
頭で考えれば好奇心は決して悪いことではないのですが、起きている間じゅう何かやんちゃなことをしているという感じなのです。
先日も、母と二人で料理をしていたときに、母が「康ちゃん(子供は康太といいます。)も最近はよく聞き分けるようになったから、お世話も大分楽よ。」と話してくれていました。
あいづちをうちながら、ふと、視線を落とすと、流し台の下の開きをあけて、真剣な面もちで包丁を抜き出そうとしている息子の姿がありました。
また、想像と違ったことの一つに、男の子は生まれた時から男の子なんだ、というのがあります。
私は、どちらかと言えば男っぽいところも多く、子供のころは男の子の友達のほうが多かった記憶があります。現在も、仕事上、男の人と行動することが多く、昼食に1人で行った店でふと見回せば女性は私1人ということもよくあります。
そういったこともあって、男女の差というのは、あんまりたいしたものではなく、むしろ個性の問題であり、体力的なところや外見はともかく、中身と言う点では男と女は本質的に変わらない、と漠然と思っていました。変わっているとしたら、それは教育による「すり込み」の部分が大きいのでは・・・とも思っていました。
息子に対しても、「男の子」であることを押しつけることは極力避けるようにしていたつもりでした。
しかし、どうでしょう。
息子は誰が教えたわけでもないのに、「車」が熱狂的に好きなのです。
あまりに車に執着するので、ミニカーがついつい増えてしまいます。これでは落ち着きのない子になってしまう、と心配した私の母からは車のおもちゃを買うことが禁止されました。
ところが、先日ディズニーランドに行ったときに記念にぬいぐるみを買ってやろうとし、いろいろな種類の動物のぬいぐるみを見せては、「どれが好き?どれがほしいの?」と聞いたところ、息子ははっきり「くーま(車)」と発音し、2メートルほど離れた車のおもちゃ(一種類が置いてあっただけなのですが)のところに走っていってしまいました。
言葉の点でもずいぶん女の子とは違うようです。ものの本によると、男性の脳で、言語をつかさどる部分は女性に比べて20%少ないとか・・・
同じころに生まれた姪が「ママ」「パパ」はもちろん、「あ、おっこちゃった。」「あーん。もう。」「あ、康ちゃんだ。」「ちゃー(お茶)。」などとしゃべりまくるのに対し、息子はほとんどしゃべることができません。
私も夫もばーばもぜんぶ、「あーあ。」で済ませています。ただ、大好きな車だけは、「くーま。」「タクシー。」と2種類の言葉がしゃべれますが・・・。
私はかなり言葉が早く、姪のパパ(私の弟)は言葉がゆっくりだったことからすると(もちろん配偶者の遺伝子の影響もあるのでしょうが)、これも男女の差なのだろうか、と思ってしまいます。
好きな本も、「金太郎」「桃太郎」「三匹のこぶた」や乗り物の本などが大好きで、絵がとてもきれいで私が気に入って買って帰った「おやゆび姫」には全く見向きもしません。
「人は女に生まれない。女になるのだ。」というボーボワールの名言があり、本当だなと思っていたのですが、「男の子は生まれたときから既に男の子である。」という事実に心の底から驚いています。
執筆者:弁護士 池野 由香里
2003年07月01日