<ポイント>
◆事業承継にあたり、信託をつかって議決権行使の指図権を残したまま株式譲渡が可能
◆死亡後、後継者に議決権行使の指図権だけをわたすことも可能
事業承継の際、オーナー経営者や創業者の保有する自社株の議決権の取扱いが重大な問題となることがあります。特に中小企業において問題となることが多いですが、上場企業を含む大企業においても生ずる問題です。
たとえば、後継者は決まっており将来は事業をその後継者に承継させるが、オーナー経営者等が当面は自分の経営権を維持したい場合があります。
また、オーナー経営者等が死亡した場合、遺産分割までは自社株は相続人の共有となり、相続人間で権利行使者を選んで会社に届け出る必要がありますが、権利行使者の合意ができずスムーズな議決権行使ができない場合があったり、遺産分割により自社株が複数の相続人に相続されて議決権が分散し、後継者の支配力が弱くなる場合があったりします。
このようなオーナー経営者等のニーズや株式の分散などにより会社の経営に影響が生じることを避けるために信託を活用することが考えられます。
信託には信託契約や遺言による信託等がありますが、契約による場合には、委託者であるオーナー経営者等が受託者との間で信託による株式譲渡契約を結ぶことになります。
受託者は、後継者であったり、信託銀行や弁護士などの第三者であったりします。
また、信託は、受益者に信託の利益を得させるために行われるので、受益権(者)はその基本的要素といえます。
株式に関する受益権としては、議決権(受託者に対する議決権行使の指図権)と配当の受領権が重大なものといえ、これらは別々の者に得させることができます。
たとえば、オーナー経営者等が保有する自社株を信託して、自社株の議決権行使については、オーナー経営者等が死亡するまでは同人の、死亡後には後継者の指図に従って行使することを定めることができます。オーナー経営者等と後継者間で信託契約をする場合には、オーナー経営者等の死亡後には後継者に自社株を取得させることも考えられます。
一方、配当については、議決権行使の指図権とは別に、後継者が取得したり、後継者以外の相続人が取得したりするように自由に定めることができます。オーナー経営者等が死亡する前は同人が取得することも可能です。
さらに、信託を活用すれば、後継者の次の後継者の指定も可能です。
つまり、受託者に対して議決権行使を指図する権限の有する指図者(後継者)を定め、後継者が死亡等したときに議決権行使を指図することができる者(次の後継者)を定めることにより、数次にわたって事業を承継する者を指定することが可能です。
自社株をその後継者に承継させるがオーナー経営者等が経営権を維持したい場合、後継者に株式を譲渡し、かつ後継者と、オーナー経営者等が死亡するまでの間の議決権行使方法について合意する方法もあります。
この方法でも生前はオーナー経営者等が経営権を維持し、死亡後は後継者が経営権を承継するという目的を達することができます。
ただ、合意した議決権行使の方法に反した場合でも、その議決権行使は有効となります。
そのような事態を想定する必要があれば、受託者を信託銀行等とする信託契約をして、オーナー契約者を議決権行使の指図権者とすることが安全といえます。