インサイダー取引の課徴金額は大幅増で過去最高に
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<ポイント>
◆約2億円の課徴金事例が初めて発生
◆コロナ禍による業績修正についてインサイダー取引がないように情報管理を

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2020年(令和2年)6月24日に公表しました。
この課徴金事例集によると、令和元年度(令和元年4月から令和2年3月)のインサイダー取引件数は昨年より1件増、一昨年より3件増でしたが、これまでの過去最高の年間合計約2億4000万円の課徴金納付命令勧告がありました。
これまでの最高額は年間合計約9000万円であったことからすれば、今年のインサイダー取引規制違反による課徴金額は大幅な増加となっています(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」 参照)。

今回の課徴金事例集にあらわれた事案の特徴としては以下の点があります。
まず、上記大幅な課徴金額の増加の原因となった1件で約2億円となる事案があったことです。
これは、投資事業等を目的とする香港投資会社の役職員(違反行為者で香港在住)が、東証一部上場の半導体商社との間における株式の取得を伴う業務上の提携を行うことを知りながら、公表前に自己及び同族会社(違反者が100%出資する法人)によって同半導体商社の株式約8億円分を買い付けたという事案です。
事案内容自体は特殊なものではありませんが、課徴金額と海外居住者の違反行為についてもインサイダー取引規制による取締りをした事案として特筆すべきものといえると思います。
次に、平成26年4月に導入された情報伝達・取引推奨規制違反について、勧告件数は8件(7事案)と、前年度の4件(4事案)からほぼ倍増しています。
情報伝達規制違反は4事案(情報受領者5名)、取引推奨規制違反は3事案(被取引推奨者3名)ありました。なお、取引推奨事案では被取引推奨者は勧告を受けていません。
会社関係者等は、重要事実等を伝達しなくても、利益を得させる目的又は損失を回避させる目的をもって取引を推奨すればインサイダー取引規制違反となり、取引推奨者に課される課徴金額は被推奨者が得た利益を上回る場合があることには注意が必要です。

今回は、一昨年、昨年にはなかったバスケット条項を適用した事案が2件(4事案)ありました。
その中にはS社の検査データ改ざん事件に関する事案があります。検査データ改ざんは同社の業績に悪影響を及ぼすもので、投資者が本件事実を知れば当然に「売り」の判断を行うものと認められたことから、バスケット条項が適用されたものです。
同社の従業員2名はこの事実が公表される前に売り付けたものですが、検査データ改ざんに加えてインサイダー取引規制違反という不祥事が重なったという意味で今後の参考にすべき事案といえます。
他にもNホールディングスのマンション事業部による売上過大計上の事案があります。同社の主力事業の一つに不正行為が判明し、過年度決算における当期純利益の下方修正等から同様にバスケット条項を適用しました。同社の従業員2名により不祥事が重なった点も同じです。

平成17年の課徴金制度の導入以降、ほぼ毎年「業績修正」を重要事実とするインサイダー取引規制違反が勧告されています。今回も3事案ありました。
今回のコロナ禍により「業績修正」が起こりやすくなっていると思われます。上場会社においては「業績修正」に関する適切な情報管理態勢を構築することはもちろんのこと、役職員らも、情報管理やインサイダー取引に対する意識を高めておかなければなりません。