議決権行使書面と総会当日の「出席」との関係
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◆株主が総会当日に来場した場合に議決権行使書面をどう扱うか
◆アドバネクス事件ではこの点により会社提案議案の可否が分かれた

アドバネクス社の2018年定時株主総会決議の存否、取消しなどを争う訴訟については、昨年10月の控訴審判決を経て現在上告受理申立てされています。
上場企業の株主総会決議をめぐり元代表者取締役が提起した訴訟事件として注目されましたが、この事件の争点の一つであった議決権行使書面の取扱いは他の会社としても考えておくべき事項です。

この事件は一部の株主(銀行、生命保険会社)の議決権行使書面の取扱いによって会社提案(当時の経営陣を再任する内容)が過半数の賛成を得たかどうかの判断が分かれる事案でした。
銀行、生命保険会社は総会前に会社提案に賛成する旨の議決権行使書面を提出していましたが、そのうえで両社の担当者が総会当日に入場していました。
両社担当者は「すでに議決権行使書面を提出済みだから」ということで総会当日の採決時には投票せず、訴訟では、担当者が当日入場したことにより議決権行使書面が撤回されたかどうかが争われました。

両社が議決権行使書面を撤回する趣旨でなかったことは明らかなように思われますが、第一審判決(東京地裁)は、担当者が当日入場したことにより議決権行使書面は撤回されたと判断しました。
議決権行使書面は総会当日に出席しない株主が議決権行使するためのものであるとしたうえで、両社担当者が株主の職務代行者として総会に出席したと捉えたのです。

これに対して控訴審(東京高裁)は、担当者は勤務先から議決権行使の権限を与えられておらず、株主の職務代行者として総会に出席したとは評価できないとして、議決権行使書面は撤回されず有効であったと判断しました。
しかし、この点で控訴審は原告側(元代表取締役)の主張を認めたものの、結論的には控訴審でも原告側は敗訴しました。訴訟をするうちに日数が経過し、予定されていた任期が経過してしまったから「訴えの利益」がなくなったというのが控訴審の理屈です。
形式的な理屈でありその当否は今後議論されるべきですが、現実として、元代表取締役は会社経営に復帰することができていません。

振り返ってみれば、2018年の定時株主総会の時点でアドバネクス経営陣が議決権行使書面の取扱いを明確にしておけば、少なくとも会社提案の賛否が曖昧になることはなかったといえます。
他の企業も、今年の株主総会シーズンを迎える前に議決権行使書面と当日出席との関係について再度整理しておくべきでしょう。