<ポイント>
◆会社法改正により補償契約、D&O保険契約を明文化
◆契約には取締役会決議が必要で、一定事項は開示対象
2019年12月4日に会社法が改正され、同月11日に公布されました。今回の改正点はいくつかありますが、その中から補償契約とD&O保険契約を取り上げます。
いずれも上場会社ではある程度採用されて実務としては目新しいものではありませんし、すでにガイドライン等も公表されていましたが(拙稿2015年6月1日付「進化するD&O保険」、2015年10月15日付「役員責任と役員報酬に関するガイドライン公表」参照)、初めて会社法で明文化されました。
これらには従来は解釈が分かれるとされていた点もあり、法律に明文化されることには大きな意義があると思います。
補償契約の対象は、役員の争訟費用、第三者に対する損害賠償金ですが、従来、これらを負担する根拠として(1)民法650条3項、(2)委任契約(補償契約)、(3)役員報酬の上乗せとしての3つが考えられていました(会社法改正によっても(1)と(3)が否定されたわけではありません)。
今後は補償契約によることが一般的になると思われます。補償契約には取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会決議)が必要です。
なお、役員就任後に補償契約を締結する場合には利益相反取引になるため、補償契約については利益相反取引に関する規定は適用されないことになっています。
第三者が役員に対して損害賠償請求した場合、補償契約によって争訟費用を会社に負担してもらうことができます。役員に重過失があったとして敗訴した場合であっても、争訟費用は会社に負担してもらえます。
ただし、通常要する額にとどまりますし、自己もしくは第三者の不正な利益を図ったり、会社に損害を与える目的があったりした場合には、いったん負担してもらった争訟費用を返還しなければなりません。
第三者に対する損害賠償金については、役員に重過失があった場合には会社に負担してもらえませんし、仮に会社が当該第三者の損害を賠償したとすれば、当該役員が会社に対して善管注意義務違反として損害賠償責任を負う場合も同様に負担してもらえません。
後者は、会社の役員に対する損害賠償請求権を予め放棄しているのと同じになり、責任免除の規定と整合しないからです。
D&O保険についても、その内容の決定には取締役会決議(取締役会非設置会社は株主総会決議)が必要で、利益相反取引に関する期待は適用されません。
D&O保険は、従来、第三者に対する役員の損害賠償義務を普通契約約款で、株主代表訴訟による役員の損害賠償義務を特約で付保(カバー)する保険契約をし、特約部分の保険料は役員負担という形態が一般的でしたが、その後、一定の要件下で保険料はすべて会社負担とすることができるようになりました。
今回の改正では「役員等賠償責任保険契約」として定義されたのは、「株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることになる損害を保険者が填補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(例外は略)」で、役員に対して損害賠償請求をする者は、補償契約のように第三者に制限されていません。
よって、上記の第三者による場合や株主代表訴訟による場合でも、さらに会社による損害賠償請求の場合でも対象となります。また、付保される対象は保険契約の内容によりますが、一般的には重過失による場合であっても対象となることが多いようです。
補償契約、D&O保険については会社法施行規則で、公開会社は一定の事項を開示することが予定されています。
一定の事項としては補償契約やD&O保険の内容の概要などですが、D&O保険については、保険料、役員等による保険料の負担割合も開示対象となる予定です。余りに手厚い保険の場合には株主等による批判の対象となるかもしれません。