<ポイント>
◆「限定提供データ」の不正取得・使用等に対する民事措置の創設(新設)
◆証拠収集手段の強化(改正)
1 はじめに
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(法律第33号)が平成30年第196回通常国会において成立し、平成30年5月30日に公布されています。当該改正の主な内容は、(1)「限定提供データ」の不正取得・使用等に対する民事措置の創設(2)「技術的制限手段」の効果を妨げる行為に対する規制の強化、(3)証拠収集手続の強化の3点でした。
上記(2)は平成30年11月29日から施行されておりますが、上記(1)及び(2)は平成31年7月1日から施行されます。今回は、上記(1)及び(2)の改正内容について簡単に説明いたします。
2 「限定提供データ」の不正取得・使用等に対する民事措置の創設(新設)
「限定提供データ」、すなわちIDやパスワードなどの技術的な管理を施して提供されるデータの不正取得・使用等する行為を新たに「不正競争行為」として、これに対する差止請求権等の民事措置を創設されています。価値のあるデータであっても、データベース著作物(著作権法第12条の2第1項)に該当しないものや、他社との共有を前提としているため不正競争防止法上の「営業秘密」には該当しないものについてはその不正な流通を差し止めることは困難でした。
そこで今回の改正法によって一定の要件を満たしたデータを「限定提供データ」として保護することとなりました。「限定提供データ」は法文上「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。」とされており、「限定提供性」「電磁的管理性(ID/パスワード等による管理)」「相当量蓄積性」の3要件を充足する必要があります。具体的には車両の走行データ、消費動向データ(POS加工データなど)、人流データ、裁判例のデータベースなどが想定されているようです。
不正取得・使用等については営業秘密の不正取得・使用等に類似しますが、データの不正使用により生じた物の譲渡等の行為は対象とならないなど相違点もありますので注意が必要です。
3 証拠収集手段の強化(改正)
裁判における証拠収集手続が強化されました。裁判手続においては、侵害行為や損害の計算をするために必要な書類の提出を裁判所が命じる証拠提出命令があります(法7条)。提出命令の対象となるのは製造記録や売上金・販売数量等が記載された各種帳簿などが考えられます。ただし、提出命令も提出を拒む正当な理由があれば、裁判所は提出を命じることができません。この正当な理由があるかを判断するために必要と認める場合には、裁判所は当該書類を提示させることができます。これをインカメラ手続といいます。
平成30年改正では、正当理由の有無だけでなく、書類提出の必要性の判断にも利用できるようにし、また専門委員を関与できるように改正されました。平成31年3月1日に閣議決定された特許法の一部を改正する法律でも中立な技術専門家が現地調査を行う制度の創設も記載されており、知財事件における証拠収集手段の強化が近年図られています。