<ポイント>
◆有期契約であっても無期契約と同視しうる場合には解雇法理が適用
◆一定の年齢で契約を終了させることに相応の合理性あり
◆適用時期を猶予するなどの配慮は合理性を補強するものといえる
今回は、有期労働契約における更新上限年齢を65歳として制定された就業規則の有効性を争った事件の最高裁判例(2018年9月14日)をご紹介します。
この事件の原告らは、現在の日本郵便の元となった日本郵政公社と有期労働契約を締結しており、郵政公社の分割民営化後も日本郵便において勤務を継続していました。
そして、日本郵便は、その設立時である2007年10月に、特別な場合を除き満65歳到達後最初の契約期間満了日が到来した場合、それ以降は雇用契約を更新しない、といういわゆる上限条項を含む就業規則を制定しました。
なお、この上限条項の実際の施行は就業規則を制定してから3年6か月後の2011年4月からとされていました。
その後、日本郵便は、2011年9月30日付けでその時点で65歳に達していた者を雇止めしました。
これに対し原告らは、この雇止めを無効であるとして、労働契約上の地位確認及び雇止め後の賃金支払い等を求めて日本郵便を提訴しました。
この点、1審、2審とも原告らは敗訴し、雇止めが有効とされました。
2審である東京高裁は、以下のように判断しました。
(1)原告らの有期労働契約は、更新手続きが形骸化しており、実質的に無期労働契約と同視しうる状態であり、本件雇止めは、解雇法理の類推適用が適用されるが、原告らの勤務状況等に問題はなく、解雇理由は認めることはできない。したがって解雇に関する法理の類推によれば無効となることとなる。
ただし、本件上限条項による更新拒否の適否の問題は、解雇に関する法理の類推により無効となるか否かとは別の契約終了事由に関する問題として捉えるべきものである。
(2)本件上限条項の有効性は、就業規則の不利益変更に準じて変更すべきであるが、郵政公社当時の労働条件を変更する合理性が認められるので、本件上限条項は、労働契約の内容となっており、雇止めは適法である。
これに対し、原告らが上告したところ、最高裁は以下のように判断し、上告を棄却し、本件上限条項は有効であり、したがって日本郵便と原告らとの労働契約は終了していると判断しました。
(1)本件上限条項は、高齢の社員が契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ、高齢の期間雇用社員について、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減しうることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、日本郵便の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の行使の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある。
(2)かつての日本郵政公社の非常勤職員につき、一定の年齢以後に任用を行わない旨の定めはなく、65歳を超えて従事していた非常勤職員も相当程度存在していたことはうかがわれるが、これらの事情をもって、日本郵政公社の非常勤職員が、満65歳を超えて任用される権利等を有していたということはできず、日本郵便は、本件上限条項の適用時期を3年6か月猶予することにより、相応の配慮をしており、合理的な労働条件を定めたものであるといえる。
この判決は様々な論点を含むものではありますが、上記のように、企業側が個々の労働者の能力を精査することなく、一定年齢をもって契約を終了させることについて、適用時期の猶予を行っていたこともあいまって、合理性があると判断している点、及びその年齢を65歳と判断している点に先例としての意義があると考えます。