<ポイント>
◆雇用継続を希望する高齢者は原則65歳まで雇用する義務
◆厚生老齢年金の受給年齢に対応する経過措置あり
◆義務違反の企業に対する公表等制裁規定を導入
高齢者雇用安定法(正式名称「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」)が改正されました。2013年4月1日から施行されます。
今回の改正の最大のポイントは、事業主が継続雇用の対象者を限定できなくなることです。
改正前は、事業主が労使協定によって定める基準により、継続雇用制度の対象となる高年齢者を限定できたのですが、今回の改正によりこの制度が廃止されました。なお、従前どおり、定年を65歳とするか定年制度を廃止するという方法を選択することもできます。
これにより、事業主が制度を運用するにあたっては、従業員の意思を確認し、従業員が希望すれば、雇用契約を65歳まで継続するべきことになります。
個々の契約期間については特に定めはありませんが、厚生労働省から出された運用に関する指針によれば、むやみに短い契約期間とならないよう努めるべきことが定められています。
ただし、経過措置として平成25年3月31日までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが可能となっています。
具体的には、平成28年3月31日までは61歳以上、平成31年3月31日までは62歳以上、平成34年3月31日までは63歳以上、平成37年3月31日までは64歳以上については、対象者を限定する基準を定めることが認められます。
ただ、この場合も、就業規則等のなかで経過措置を利用する対象者を明記するなどして就業規則等を改訂する必要があります。
なお、心身の故障のために業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たしえないことなど就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除きます。)に該当する場合には、継続雇用しないことができます。
ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められるのでその点に留意が必要です。
事業主として気になるのは、雇用継続制度を導入していなければ60歳定年による退職は無効となるのか否かですが、厚生労働省は、高齢者雇用安定法は個別の労働者を65歳まで雇用する義務を課すものではない、と明言しています。これによりこれまで裁判上争われていた高齢者雇用安定法の私法的効力は否定されたものと思われます。
ただし、適切な継続雇用制度が導入されていない場合は、職業安定所を通じて実態を調査し、必要に応じて、助言、指導、勧告、企業名の公表がなされる可能性があります。
また、事業主の不適切な運用により、従業員が精神的損害を被ったと認定される場合などには、従業員からの損害賠償請求が認められる場合も想定されますので注意が必要です。
さらに、今回の改正で、高年齢者雇用確保措置が講じられていない企業について、勧告に従わないときは、厚生労働大臣が企業名を公表するとともに、ハローワークでの求人の不受理・紹介保留、助成金の不支給等の措置を講じることにしています。
今回の改正により、企業は原則として65歳までの雇用義務が発生することになりますので、60歳以上の高齢者に対し、どのような契約を締結し、どのような形で働いてもらうのかを充分検討しておく必要があります。