法人の役員に対する退職金について
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法人から役員に対する職務の対価としては、月額報酬、賞与、退職金がありますが、役員報酬から退職金に至るまでの報酬全体について、法人課税及び個人課税の両面から支給額を検討することにより、一定の節税効果が期待できます。しかしその反面で、同族会社においては、その金額設定等に恣意的な判断が入る可能性があることから、税務調査等における役員退職金の否認事例も少なくありません。
本稿では、役員退職金に対する課税の基本的な考え方を確認するとともに、否認指摘を受けないポイントを整理します。

1.退職金受給側の個人所得税
役員に限らず、退職金を受給した場合は、退職所得として他の所得と分離して所得税を計算します。退職金は、勤務期間にわたり発生するとみられる点、老後の生活資金という点から、所得計算に2つの軽減措置が講じられています。
(1)退職所得控除
勤続年数20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続年数20年超  800万円+70万円×(勤続年数-20年)
(2)2分の1課税
退職金の額から(1)を控除した残額に対して、税率を掛ける前に2分の1を乗じて退職所得の金額が算出されます。
例えば、勤続年数30年で退職金2,000万円を受け取った場合は、250万円が退職所得となります。
〔2,000万円-{800万円+70万円×(30年-20年)}〕×1/2=250万円
このように計算された退職所得は、他の所得と合算せずに、独自に総合課税の税率を乗じて所得税が算出されます。

2.退職金支給側の法人税
役員退職金の金額は、株主総会の決議等を行った日の属する事業年度の損金の額に算入されます。支払った年度において、費用として損益計算書に計上した場合は、その支払った事業年度の損金の額に算入することも認められます。

3.退職金の金額が過大でないかどうか
このように、法人側で損金となり法人税等が減少する一方で、受け取った個人側では所得税等の軽減措置があるため、法人から個人へ金銭を支給する際には、給与や配当よりも税負担を少なく資金移動させることができます。また、自社株式の評価額を下げる効果もあり、退職金支給後に株式を後継者に承継させれば、譲渡所得税や贈与税等の負担も軽減させることが可能となります。
しかし、これを利用した租税回避行為が行われることがあるため、役員退職金の支給については、不相当に高額な部分の金額、つまり、過大なものは、法人側で損金算入が認められないという取扱いがあります。
この過大かどうかの判断基準として、一般的なものに功績倍率法というものがあります。
当該役員の退職時の月額報酬に役員の勤続年数を乗じてさらに功績倍率を乗じた金額とするものです。功績倍率は会社代表者の場合、3倍程度までは認められるといわれていますが、これらは総合勘案なので、3倍だから否認リスクがないとはいえず、注意が必要です。例えば、功績倍率2倍を用いたが、退職金支給直前に月額報酬を著しく増額していたため否認された事例もあります。

4.退職の実態があるかどうか
臨時的な利益が生じたこと等により法人税等が多額に課される事業年度において、役員退職金を支給することで法人所得を減少させようとするケースがあります。当該役員が完全に退職、又は分掌変更等により地位や職務の内容が激変して実質的に退職したのと同様の状態にあれば問題ありませんが、そうでなければ退職金額全体が損金不算入とされる可能性があります。

以上、節税効果が期待できる一方で、税務リスクも伴うため、退職金規程の整備等も含めて計画的に準備しておくことが必要といえます。