前々回に引き続き、平成30年税制改正についてですが、今回は、大幅な改正となった事業承継税制について改正のポイントを確認します。
1.概要
事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
平成30年度税制改正では、その事業承継税制について、これまでの措置(一般措置)に加え、10年間の措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限の撤廃や、納税猶予割合の引上げ等がされた特例措置(特例措置)が創設されました。
2.対象株式数・猶予割合の拡大
改正前は、先代経営者から贈与・相続により取得した非上場株式等のうち、議決権株式総数の3分の2に達するまでの株式等が対象(贈与・相続前から後継者が既に保有していた部分は対象外)となっていました。例えば、相続税の場合、猶予割合は80%であるため、猶予される税額は3分の2を乗じた約53%部分となります。
今回の改正では、これらの上限を撤廃し、猶予割合を100%に拡大することで、事業承継時の贈与税・相続税負担がゼロとなります。
3.雇用要件の抜本的見直し
改正前は、事業承継後5年間平均で、雇用の8割を維持することが要件であったため、仮に雇用8割を維持出来なかった場合には、猶予された贈与税・相続税の全額を納付する必要がありました。
今回の改正で、雇用維持が出来なかった理由が経営悪化又は正当なものと認められる場合には、納税猶予を継続可能になりました。雇用維持が出来なかった理由が経営悪化又は正当なものと認められない場合でも、認定支援機関の指導・助言を受けることで要件を満たすことができます。
4.対象者の拡充
改正前は、一人の先代経営者から一人の後継者への贈与・相続が対象でした。
今回の改正で、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となりました。なお、複数人で承継する場合には、その全員が代表権を有していること、議決権割合の10%を有し、議決権保有割合上位3位までの同族関係者に限定されています。
5.経営環境の変化に応じた減免
改正前は、後継者が自主廃業や売却を行うこととなり、納税猶予の取り消しとなった際に、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の高い株価を基に贈与・相続税を納税するため、過大な税負担が生じていました。
今回の改正で、売却額や廃業時の評価額を基に納税額を再計算し、事業承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免されることとなり、経営環境の変化による将来の不安が軽減されました。
6.相続時精算課税制度の適用範囲の拡大
改正前は、相続時精算課税制度は、原則として直系卑属への贈与のみを対象としていました。
今回の改正で、事業承継税制の適用を受ける場合には、相続時精算課税制度の適用範囲を拡大することにより、猶予取消し時に過大な税負担が生じないようになりました。