敷引特約と更新料特約を無効とする判例
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居住用建物の賃貸借契約における保証金について、敷引特約と更新料特約が消費者契約法10条により無効であるとした平成21年7月23日付の京都地方裁判所の判例を紹介します。
原告である借主は、被告である貸主と賃貸借契約を結んでマンションに入居しました。賃貸借契約には「解約引き30万円(敷引金)」、「更新料は賃料2か月分」とする特約がありました。また、借主は入居時に保証金35万円を支払い、契約更新時には更新料特約に基づいて更新料11万6000円を支払いました。
その後借主は退去しましたが、敷引特約や更新料特約に納得できず、これらの特約が消費者契約法10条により無効であると主張して保証金35万円と更新料の返還を求めて京都地裁に提訴しました。

消費者契約法10条は、事業者と消費者の契約について、消費者側に一方的に不利な信義誠実の原則に反する条項を無効とするものです。
民法、商法などの条文が定めるルールには、契約当事者が合意しても変更できないもの(強行規定)と、契約当事者が合意すれば変更しうるもの(任意規定)があります。
消費者契約法10条は、任意規定に関する契約当事者間の取りきめであっても、消費者側にあまりに不利な内容であれば効力を認めないというものです。

京都地裁判例も述べるように、保証金は賃料その他の賃借人の債務を担保する目的をもって賃貸借契約締結時に賃借人から賃貸人に交付されるお金です。
したがって、賃貸借契約終了時に賃料不払いなどの債務不履行がなければ保証金は全額返還され、債務不履行があればその金額から控除されるというのが基本ルールです。
京都地裁は敷引特約も更新料特約も消費者の利益を一方的に害するので無効としました。
京都地裁は、本件の敷引特約について、敷引額が保証金の85%、月額賃料の5か月分にも相当するもので、借主にとって大きな負担であるとしました。
そして、貸主側の敷引特約に合理性があるとする主張をつぎの(1)から(5)のようにことごとく否定しました。
(1)自然損耗の回復費用は賃料を適正な額とすることによって回収すべきである。
(2)自然損耗の回復を超えるリフォームの費用については貸主が負担すべきであり、敷引によりリフォーム費用を借主に負担させる理由はない。
(3)空室期間の賃料が得られないことによるリスクは賃貸人が負うべきである。これについても敷引により借主に負担させる理由はない。
(4)賃貸借契約成立の謝礼を一方的に賃借人に負担させる理由はない。
(5)敷引特約があることで賃料が低く抑えられているかは証拠上明らかでなく、また実際に使用する期間にかかわりない敷引金に賃料前払いの要素があるとはいえない。
京都地裁は、以上から敷引金の趣旨は不明瞭であり信義誠実の原則に反して賃借人の利益を一方的に害するものとして、敷引特約が消費者契約法10条に該当し無効と判断したのです。

また、京都地裁は更新料特約について、法律上賃貸借契約が当然に更新されるような場合にまで借主に一定額の支払いを強いるもので、借主にとって大きな負担となるとしました。
貸主側は、更新料は更新後の賃料の一部に実質的に充当されるもので合理的であると主張しました。
京都地裁は貸主側の主張について、実際の使用期間の長短にかかわらず更新料は一定額なので賃料の補充とはいえない、賃料の一部前払いだとしても前払いを強いること自体が借主に不利益であるとして、貸主側の主張を退けました。
このように述べて京都地裁は更新料特約も消費者契約法10条により無効と判断しました。

本判決は賃貸借契約の実務に大きな影響を及ぼしているようです。
大阪高等裁判所でも平成21年8月27日に更新料特約が消費者契約法10条より無効であるとする判決がありました。