最近クライアント(メーカー)から債権回収の依頼を受け、「債権仮差押え」の手続きを取りました。
取引先から売掛金の支払いがない、しかし、特段の担保も取っていないとします。そんなとき法的な回収手段として使い勝手がいいのは、その取引先が有する売掛金などの債権を押さえ、そこから回収する方法です。なぜ使い勝手がいいかというと、裁判所の決定があれば、その取引先から見た売掛先(これを「第三債務者」といいます)から直接に取り立てることが法律的に認められているからです。不動産に強制執行をかけるとなると、裁判所に多額の執行予納金も納めないといけませんし、執行自体が長期間かかります。債権を差し押さえた場合は、裁判所の差押命令が取引先に届いた日から1週間で、その売掛先に直接請求し、そこから支払を受けることが法的に認められます。もちろん取引先の売掛先(第三債務者)にも資力がないとか、「不良品だったから支払わない」などの抗弁があれば話は別ですが、比較的うまくいくケースが多いように思います。
押さえるべき債権は売掛金だけに限りません。取引先が工事業者なら請負工事代金を押さえるのも有用です。もちろん銀行に対する預金債権も対象にはなるのですが、取引先が事業者である以上、その銀行から借り入れしているケースが多いので、もし預金債権を押さえても銀行から「相殺します」との回答が返ってくるのが通常です。その取引先が借入をしておらず、預金しているだけという銀行を狙い撃ちするのは難しいでしょう。
問題は取引先がどこに対して、どのような債権を持っているかをどうやって知るのか、ということです。基本的には地道に情報収集をせざるを得ないということになります。民事執行法は「財産開示手続」という制度を設けていますが、私は試したことがありません。これは公正証書や勝訴判決などがある場合に、1回は強制執行してみたが、成功しなかったときに限られます。ちなみに私がクライアントと、押さえるべき債権として何があるか考えるとき、その会社がどうやって収入を上げているのかに知恵を絞るというようなこともあります。
さて、その債権からの回収方法ですが、その状況に応じて、大まかに言って3種類あると考えられます。この分類自体は、区別の基準がばらばらなので、うまい分類とは言えませんが、債権回収の必要に迫られる場面で方法をさっと思い浮かべるためには役立つと思います。
まず、1つ目は債権の仮差押えです。
裁判所に所定の申立てをして債権仮差押え命令の発令を求めます。公正証書も勝訴判決もない状態で、裁判所は一定の「疎明」資料(「証明」資料ではなく)のみから「仮」の差押えを命ずるので、債権者には担保金を積むことが求められます。その金額はごくごく大まかに言って請求金額の1~3割程度です。
その命令はまずは第三債務者に届きます。第三債務者に対して支払いをストップするよう命じます。支払ストップを命じるだけなので、仮差押えだけでは、債権者の直接取立権は発生しません。最終的な回収を図るには、改めて訴訟を提起して、勝訴判決をとり、強制執行(本差押)をする必要があります。そうなると結局、数か月を要したりということにはなります。
ただし、常にその道をたどるとは限りません。仮であれ、取引先にとっては収入の道が寸断されてしまうこともあるので、その意味で仮差押えも強力です。取引先が困って、支払いの話を持ちかけてくることもあります。そうすると、仮差押えだけで所定の目的をある程度達成することもあります。
2つ目は債権の(本)差押えです。
これが使えるのは、すでに訴訟の審理を終え、勝訴判決を受けたという場合(和解、調停、支払命令などもありますが、省きます)、あるいは取引先の事前の協力のもと公正証書を作ってあったという場合です。
これは本差押ですので、勝訴判決や公正証書を添付して裁判所に債権差押命令を申し立てます。担保金はいりません。裁判所の判断がすでになされ、あるいは債務者が強制執行に服する意思を表明していることが公証されているからです。
債権差押命令はまずは第三債務者に届きますが、裁判所はこれを見届けて(郵便局員からの報告書により)、債務者に命令を発送します。
前述のとおり、債務者に命令が届いた日から7日で、債権者に直接取立権が生じます。債権者は任意の方法で第三債務者に直接請求します。その支払いを受けること自体に裁判所の改めての関与は必要ありません。
3つ目は「債権差押(動産売買の先取特権に基づく物上代位)」といい、1、2とはやや異質です。民法が特別に認めた担保だからです。
つまり、債権者に優先権があります。仮差押えや本差押えは、破産や民事再生など法的な倒産処理手続きが開始すれば、その効力が失われる難点があります。しかし、この「動産売買の先取特権に基づく物上代位」の場合は、担保権であるため、その効力は失われません。
仕組みを簡単に説明します。商品等の動産を売ったとき、その商品が取引先の占有下にあるならば、商品を差し押さえ、その売却金から優先回収できる権利が売主に認められています。これが動産売買の先取特権です。
その商品がさらに売却されているならば、商品は取引先の占有から外れてしまいます。ただ、そのときにその取引先が商品を売った売掛金が未回収ならば、商品そのものの代わりにその売掛金を差し押さえることができます。これが「物上代位」ということの意味です。
この手続きにおいて最も重要なのは、債権者が売った商品と、その取引先(債務者)が売った商品とが同一であることの証明が必要という点です。裁判所への申立時に資料をもって証明しなければなりません。このことが証明しやすいのは、商流としては債権者→債務者→第三債務者となるものの、商品自体は債権者から第三債務者へ直送されるというケースです。このときは債務者の元で他の商品と混じってしまうことがないので、商品の同一性が証明しやすいということです。したがって、この手続きがとれるのは、このような「商品直送」のケースであるのが通常です。逆に言うと「商品直送」のケースでは「動産売買の先取特権に基づく物上代位」がまずは思い出されるべき、ということです。
商品の同一性を証明するための資料についての説明は省略しますが、事前に第三債務者の協力が取り付けられるならば、手続きはスムーズになります。命令が出た後の回収の手順は本差押の場合と同じです。
以上、取引先の売掛金からの債権回収という切り口で整理してみました。ご参考にしてください。なお、もちろんその売掛金について債権譲渡を受けるという方法もありますが、これには当然その取引先の協力(つまり同意)が必要です。取引先の協力を基本必要としない上記3つの方法とは異なるので、本稿の対象とはしていません。