団体交渉の申し入れがあったら
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<ポイント>
◆団体交渉要求には誠実に応じるべき
◆要求内容には是々非々の態度で
◆専門家のアドバイスを受けて粛々と対応を

企業の経営者や総務の方でも、うちの会社には労働組合はないし労働組合のことは意識したことがない、と思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、最近は、企業内組合のない会社において、会社の労働条件に不満のある従業員が単独や仲間と数名で労働組合に加入して、合同労組(ユニオン)などの労働組合から団体交渉の要求をつきつけられることがよくあります。
そのような場合、企業としては、どのように対応すればよいのでしょうか。

まず、やってはいけないことは、例えば合同労組からの団体交渉要求に対し、「なんでうちの従業員の話なのに、あなたみたいな外部の人間と話をしなければならないのだ!」などと突っぱねたり、組合に加入したことを理由に従業員に対し不利益な取り扱いをしたりすることです。
もちろん、その合同労組に少なくともその会社の従業員が加入していることは確認するべきですし、合同労組が確認に応じない場合は交渉を拒否することも可能とされていますが、従業員の加入が確認できた場合で、その会社の従業員の労働条件に関する交渉事項について団体交渉が求められている場合には、少なくとも団体交渉のテーブルにつく必要はあります。
正当な理由のない団体交渉の拒否や組合員に対する不利益取り扱いは、労働組合法7条に違反し、民事上の不法行為となって損害賠償義務を負う可能性があり、かつ、確定した地方労働委員会からの救済命令や確定判決によって支持された救済命令に違反したときは罰金等の刑事罰を受けることもあります。

注意していただきたいのは、これらの対応の問題点は罰則うんぬんよりも、このようなずさんな対応をすることによって、労働組合側から「この会社はしかるべきアドバイスも受けずに不勉強に対応しようとしているな。」と思われることです。
そうなってくると、わざとやや無茶な要求をしてみたり、会社側から組合に加入したことを理由として解雇をさせるよう仕向けたりするなどの会社側の違法行為を誘導するような動きをしてくる労働組合もあります。また、こじれて紛争が拡大するおそれもあります。
まずは、冷静に、相手が何を問題点として団体交渉を求めているのか、相手の言い分を聞く姿勢が大切です。
そして、検討した結果、法律等に照らし正すべきところは可能な限り速やかに正す、という姿勢を持つことです。
ごく一部の例外を除いて、労働組合側も会社を倒産させたいわけではなく、単純に労働条件の是正を求めている場合が多いのですから冷静に対応することが大切です。

また、逆に変に低姿勢になって相手のいいなりになるのも不適当です。
例えば、「暫定的労働協約」と題する書面に署名を求められたりすることがありますが、なかには、当該労働組合に加入していない従業員は解雇する、など現状からかけ離れた条項が入っていたりするものもあります。
これらも、是々非々の態度で誠実に対応し、義務のあるものについては応じ、そうでないものについては、拒否ないし留保するという態度をとるべきです。
検討する必要がある事項についてはその場で無理に即答する必要はなく、よく検討してから責任を持った回答をすべきです。

また、交渉の日時について、組合側がやや近い日時で設定をしている場合がありますが、準備や他の業務の予定がある場合などには、事案の緊急性にもよりますが、例えば1週間後とか10日後などの延期を希望しても問題ないことが多いです。

会社側は、団体交渉の要求に対しては誠実に対応する義務がありますが、結論としては相手のいいなりになる必要はなく、断るべきところは断っても当然かまいません。
賞与の増額や昇給要求などについても、法的に会社側が応じる義務がある場合は少ないです。
ただ、例えば明らかな残業代の未払いがある場合などは、双方で歩みよって解決策を探すべきですし、セクハラの訴えがあった場合などは、事実関係を調査したうえで問題があるようであれば改善策を講じるのが会社の利益にもなります。

私の経験上は、是々非々の態度で丁寧に対応していればよほどの例外的な場合を除いて遅くとも半年から1年程度で収束します。
しかし、最初にボタンの掛け違いが生じると地労委に対し救済申し立てをされたり、ビラまきや街宣車を出してきたりなどの激しい組合闘争になる場合もあります。
団体交渉の申し入れがあった場合は、むやみに感情的になったり慌てたりすることなく、弁護士などの専門家に相談するなどして、適切な対応を粛々と行うことが肝要です。