懲戒処分としての減給と降格に伴う減給
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<ポイント>
◆懲戒としての減給には労働基準法の制限あり
◆降格に伴う減給には労働基準法の制限はないが慎重に

「減給」には、「懲戒処分としての減給」と、業務上の職位が下がったことに伴う「降格に伴う減給」があります。

まず、「懲戒処分としての減給」であれば、労働基準法第91条により、「使用者が制裁としての減給を行う場合は、1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、かつ、減給の総額は1賃金支払期(通常1か月)における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」という制限がなされています。
すなわち、1懲戒事由ごとには半日分の給与額が減給の上限であり(日給1万円であれば5000円が上限)、一賃金支払期における減給額の総額は10分の1まで(月給が30万円であれば総額で3万円まで)という法律の制限があるのです。

余談になりますが、上記の額ではあまりに少額で制裁の意味がないと考えるのか、この額を超えた減給をする会社が散見されます。しかし、このような事実があれば、後日紛争が起こった場合にコンプライアンス意識の低い会社とみなされて会社に不利に働く場合があるので、注意が必要です。

このほか、人事上の降格、あるいは、懲戒処分としての降格に伴って給与が下がる場合があります。
この場合、労働基準法第91条との関係はどうなるのでしょうか?

まず、人事上の降格についてはどう考えるべきでしょうか?
人事上の降格とは、人事制度として、「職務遂行能力」、「職務」、「役割」等により労働者を格付けするシステムのなかで、その格付けが下がった場合をいいます。
通常、給与も格付けに連動しますので、降格された場合は、給与も下がることになります。
この場合は、労働者の担当職務のランクダウンや果たすべき役割の低下に伴う人事上の措置であり、懲戒処分とは本質的に異なります。
すなわち、人事上の降格に伴う減給については、労働基準法第91条の射程範囲外ということになり、この制限は適用されません。

次に、懲戒処分としての降格はどうなるのでしょうか?
この場合も格付けが下がるのに伴って給与は下がるのですが、この点については、降格が懲戒処分としてなされている点で、降格と減給の二重処分にならないかという疑問が生じ得ます。
これについては、行政解釈として、職務ごとに異なった基準の賃金が支給されることとなっている場合に、職務替えにより賃金が低下するときには、降格などの職務変更に伴う当然の結果なので、労働基準法第91条の減給の制裁には該当しない、とされています。
ただし、降格は実質的には継続的な減給であり、労働者にとって重大な不利益が課せられることになるのですから、降格処分を行うには形式的に降格事由に該当するだけではなく、実質的にも労働者が被る不利益にふさわしいだけの重大な秩序違反行為等があった場合に限定されるべきです。

なお、同じく行政解釈によって、従来と同一の職務に従事させながら賃金だけ引き下げる場合には、たとえ「降給」等の名称にしていても、労働基準法第91条の減給に該当する、とされており法律上許されません。