松下プラズマディスプレイ事件 最高裁判決について
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今回はいわゆる偽装請負についての最高裁判決を紹介します。
いわゆる偽装請負かどうかが問題となった事案において、請負会社の労働者と受入企業との間に直接の雇用契約が成立するか否かが焦点となって裁判上争われていました。
この事案について、2009年12月18日、雇用契約の成立を認めないとする最高裁判決が出ました。
事案としては、以下のとおりです。

プラズマディスプレイパネルを製造していた松下電器産業の子会社(以下では単に「松下」といいます。)は、家庭用電化製品の製造を請負うパスコ社との間で業務委託契約を締結し、パスコ社の従業員たる本訴訟の一審原告(以下では単に「原告」といいます。)を作業に従事させていました。
原告は、作業にあたって松下の従業員から指示を受けていました。
原告は松下に対し、この就労形態が実際には業務請負ではなく労働者派遣であり、いわゆる偽装請負にあたるとして、直接雇用するよう申し入れました。また、大阪労働局に偽装請負であると申告しました。
大阪労働局は、その従業員の申告を受け、業務委託契約を解消して労働者派遣契約を締結するよう、松下に対し是正指導を行いました。
それをうけて、パスコ社は業務請負から撤退し、原告はパスコ社を退職しました。
その後、原告からの直接雇用してほしいとの要望に対し、松下は1年4か月間の有期での直接契約の申し入れを行い、原告は期間については別途異議をとどめる旨の意思表示を行いつつ、上記契約期間での直接雇用契約を締結して就労しました。
その一方で、原告は松下に対し、期間の定めのない雇用契約とすることを求めていましたが、松下は、1年4か月が経過したことにより、上記契約期間の満了をもって契約が終了したとして従業員の就労を拒みました。
原告は、松下に対し、期間の定めのない雇用契約上の地位を有することの確認や慰謝料支払いを求めて訴訟を提起しました。

一審の大阪地裁は、原告の慰謝料請求を一部認めた以外は、原告の請求を棄却しました。
これに対し、大阪高裁は、原告と松下の直接の雇用関係を認めました。詳しくは当メールマガジン2008年8月1日号「いわゆる偽装請負に関する判決-松下プラズマディスプレイ事件」 をご覧ください。
その理由として、原告は松下からの直接の指揮監督のもとで労務に従事しており、使用従属関係があったことと、原告の給与は松下がパスコ社に支払った業務委託料からパスコ社の利益を控除したものを基礎としているので、松下が原告の給与の額を実質的に決定する立場にあったことをあげています。
そして、松下・パスコ社間の契約及びパスコ社・原告間の契約は偽装目的のもので公序良俗に反し無効であり、上記のような実体関係(使用従属関係・労務提供関係・原告の給与額を決定する関係)を法的に根拠付けるのは、原告と松下との間の雇用契約以外にないので、黙示の雇用契約の成立が認められる、としました。

最高裁は、この高裁の判断を覆して、松下と原告間に雇用契約が成立しているとは認められないとしました。
最高裁は、実態からすれば、原告はパスコ社から松下に派遣されていた派遣労働者であり、この派遣は労働者派遣法の要求する手続きを経ていない点で労働者派遣法に違反しているとしました。
しかし、このような労働者派遣法違反があったからといって、原告とパスコ社との間の雇用契約は無効にはならない、と判断しました。
そして、松下がパスコ社の原告採用について関与しておらず、原告の給与決定に事実上も関与しておらず、むしろ、パスコ社自身が原告の配置等の具体的な就業態様を決定しうる地位にあったことを認定しました。
そして、これらの事情からは、松下と原告間において黙示的な雇用契約関係が成立していたとはいえないと結論づけました。
したがって、松下と原告間において雇用契約が成立したのは、明示的に1年4か月の有期雇用契約が締結された時点であると認定し、この契約には、期間の満了後も雇用契約が継続されるものと期待されるような特段の事情はなかったとして、松下と原告間の雇用契約は期間の満了をもって終了すると判断したのです。

私は、先の当メールマガジン2008年8月1日号の記事で、この高裁の判断にはかなり無理があるので、最高裁では異なった判断がなされるのではないかと予想していました。
もちろん、政策的な問題として、偽装請負があった場合には労働者と派遣先とのみなし雇用を認める立法を行うという考え方もあり得ると思います。
しかし、そのような法律もないのに、パスコ社を飛び越して、偽装請負の当初から松下と原告との間で直接の労働契約が成立していたとみるのは論理的に無理があったと思います。

この最高裁判決により、業務委託を行った場合に企業が予想しなければならないリスクはかなり軽減されたといえ、製造業のアウトソーシングに重要な影響があると考えます。