<ポイント>
◆「人材と競争政策」が公取委の検討対象に
◆独占禁止法は不公正な取引方法を禁止
◆スポーツ選手などのほか芸能人も検討対象に
2017年7月に公正取引委員会が、「人材と競争政策に関する検討会」の開催を発表しました。
検討会においては、「主として、複数又は単独の使用者による引き抜きの防止、賃金の抑制に関する協定の締結、転職・転籍や取引先の制限といった競争を制限する可能性のある行為に関して、内外の実態・判例、労働関係法制における規律の状況、使用者による人材投資を促進する必要性を踏まえつつ、独占禁止法や競争政策上の課題を理論的に整理する。」とされています。
ここにいう人材については、IT人材のほか、スポーツ選手、映画出演者などが例としてあげられています。
独占禁止法では、不公正な取引方法を禁じています。
不公正な取引方法とは、「自由な競争が制限されるおそれがあること」、競争手段が公正とはいえないこと」、「自由な競争の基盤を侵害するおそれがあること」といった観点から、公正な競争を阻害するおそれがある場合に禁止されます。
ところで、人気アイドルグループ「SMAP」の解散及び一部メンバーの事務所退社にまつわる一連の騒動は記憶に新しいところです。また、NHKの朝ドラ「あまちゃん」の主演で人気を博した女優の「能年玲奈」さん(これが本名であるにもかかわらず、事務所退所後はかつての所属事務所との関係で「のん」という名前で活動することを余儀なくされていると言われています。)が、所属していた事務所を退所後、大ヒットした映画の声優で好評を博しているにもかかわらず、なぜかテレビで見ることがほとんどないことなど、一般人にとっては視聴者の需要が何かの力でゆがめられている気がすることがあります。
SMAPのメンバーや能年玲奈さんのような国民的注目を集める存在であれば視聴者の需要が明らかなので不自然な動きがあればその不自然さはおのずと明らかになってくるのでしょうが、彼らのように突出した存在でなければ需要の存否もあいまいであり、不当な圧力があったとしても明らかになりにくく、この種の問題は思っている以上に一般化している可能性もあります。
もしも、実際の事例において、芸能事務所がその優越的地位を利用して芸能人に対し転籍を禁止したり、転籍後の活動について放送局や興行主等に圧力をかけたりする行為が認められた場合には、公正取引委員会から、不公正な取引方法であると認定され、独占禁止法違反として排除措置(違反行為の差し止めや団体の解散等の違反行為の排除に必要な措置)や課徴金の納付などが命じられる可能性もあります。
これまで芸能人のマネージメント契約については、業界の慣習が強調され、私のような法律の専門家でさえも、あたかも法の支配が及ばないかのような印象を持っていた部分があります。
芸能界に悪しき風習や、芸能人に対する過度な支配があるのであれば、この機会に見直されることを期待します。