今回は、懲戒解雇にいたるまでのプロセスに着目して解雇を無効とした判例をご紹介します。
大阪に本社のある電動機器メーカーの東京支店長(取締役兼務)が、複数の女子社員に対して慰安旅行中の宴会の席で肩を抱いたり自分の膝にすわらせようとしたり、日頃から女性社員に対して「胸が大きいね」「ババアは関係ない帰れ」「犯すぞ」などの発言をするなどのセクシャルハラスメント行為により懲戒解雇となったというのが事案の概要です。
懲戒解雇となった理由としては、慰安旅行の際のセクシャルハラスメント行為に加え、通常の業務においても女性社員の身体に触れたり身体についての不適切な発言を繰り返していたことなどもあげられています。
この懲戒解雇処分を不服とした元支店長が、懲戒解雇は権利の濫用であり無効であるとして従業員としての地位確認の裁判を起こしたのです。
これについて裁判所は、懲戒解雇は会社の解雇権の濫用であり無効であるとして、元支店長が社員の地位にあることを確認するとともに、会社に対し懲戒解雇処分後の給与を支払うよう命じました。
裁判所は、元支店長の言動については、女性を侮辱する違法なセクハラであり、懲戒の対象となる行為であることは明らかで相当に悪質であるが、強制わいせつ的とまではいえないとしました。
そのうえで懲戒解雇に関しては、コンプライアンスを重視して厳しく対応しようとする会社の姿勢は十分首肯できるものであるとしつつ、これまで元支店長に対して何らの指導や処分をしてこなかったのに労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するのは重きに失する、として解雇を無効としました。
裁判所が認定した事実関係を見るかぎり、元支店長の常日頃の言動等からは降格などの比較的軽い処分をしても反省して行動が改まる可能性は低い印象を受けます。そのことを考えると、再発の危険やその場合の会社の責任などを考えると会社が懲戒解雇という選択をしたことは十分納得がいきます。また、裁判所が非常に悩んだ上で結論を出したことも伝わってきます。
しかしやはりこの事案でのポイントは、元支店長のセクハラ的言動に対し会社が懲戒解雇までに全く注意や処分をしてこなかったことです。
明らかに犯罪にあたる行為を行ったという場合ならともかく、そうでないのに度を外れた行為を行ったからといっていきなり社会人にとっての死刑判決を下すのは間違っている、というのが裁判所の判断なのです。
おそらく会社側にとってみれば、東京支店長にまでなった人物を降格しても配属先がないし、受け入れる側も困惑するばかりであるという判断もあったと思います。
それでも会社にはこれまで監督を怠ってきた責任もあるのだから切り捨てて終わりというのではなく、もう一度チャンスを与えなければならないのだということだと思います。
ただ、この事案は非常に結論の微妙な事案ですので、高裁の判決があれば注目したいと思います。