今回は、会社(NTT東日本)が行った経営改革により担当職務がなくなった社員に対してされた遠隔地への配置転換の有効性について判断した判例(東京地裁・平成19年3月29日)を紹介したいと思います。
配置転換とは、社員の職務内容又は勤務場所を変更することです。
配置転換の有効性が争われる場合、通常、(1)会社がその配転命令を行うことが労働契約に反しないか、という点と、(2)会社側がなした配転命令が権利の濫用と言えるか、という点が問題となります。
この判例でも、他にも細かな論点はあるものの、大きな争点はこの2点です。
(1)まず、労働契約の内容については、通常の場合、会社の就業規則には「業務上必要があるときは、勤務場所又は担当する職務を変更する」等の定めがあり、会社は配置転換命令を行う権限を有しています。
しかし、個別の募集・採用にあたって勤務場所や職種を限定していたり、運用上同意をとってから初めて配置転換を行っている場合などには、配置転換命令を一方的になさないという合意があったと見られる場合もあります。
本件では、採用が現地採用であったこともあり、社員側はその旨主張しましたが、いずれも否定され、会社に配置転換命令を行う権限があり、労働契約には違反しない、との結論でした。
この点についての判例の態度は、契約上転勤がない旨明示してある場合や特別な資格に基づいて採用された場合などの場合は別として、一般的には、採用時の事情やその後の慣行などの事情によって会社側の配転命令権そのものを否定するということは少ないです。
会社の人事権の重要事項である配転命令権自体を奪うことについて、裁判所は消極的な姿勢をとっているものと思われます。
ただし、就業規則に配転命令権についての記載がなければ、会社の配転命令権は認められないので注意が必要です。
(2)次の争点である、配転命令権の濫用にあたるかどうかですが、これについては有名な最高裁判例があります。
東和ペイント事件(最判昭和61年7月14日)が、配転命令権濫用の判断要素として「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき」には配転命令が権利の濫用になるとしています。
本判決もおおむねこの基準を採用したうえで、会社の経営改革により社員が従事していた職務がなくなっているという事情からすれば、業務上の必要性の判断もより緩やかに行われるべきであると判断しています。
そのうえで、配転の有効性の判断に際し、会社側の行った経営改革の合理性、必要性を判断しています。
結論としては、様々な事情を検討しつつ、収益性を改善するために経営改革は必要性・合理性があり、かつ、そのために配転を余儀なくされる社員の不利益は甘受すべき程度を著しく超えるものではない、としています。
本件は、経営改革に伴い、一定の年齢に達する社員の退職を望んでの配転であることは否めないようにも思いますが、社員に子会社への出向か配転かの選択の余地を与えるなどの手段をとっていることから、会社側の経営判断が尊重されたものといえます。
本件は控訴されており、今後の動向も気になるところですが、経営改革に伴う配転命令の有効性を判断した事例として参考になると思われます。