解雇紛争の金銭による解決方法制定へ
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厚生労働省が、解雇紛争を補償金で解決する新制度を導入する方向で調整に入ったとのことです。
労使紛争の防止を目的に制定する「労働契約法」の一内容として定める方針で、早ければ来年に成立する予定です。
これにはどのような意味があるのでしょうか?

現在、従業員が会社から解雇を言い渡された場合、これに不服がある従業員としては、解雇の無効確認の訴訟等の手続きを行うしかありません。
つまり、いったん自分を解雇した会社に従業員として戻ることを前提として訴訟等の法的手続きを行うのです。
理論的には、解雇が無効であれば、従業員の地位は存続するはずなのですから、間違いではないのですが、実際問題としては、訴訟手続きを通じて争った後で会社に戻るというのは、なかなか難しいことです。
従業員の立場になってみれば、解雇されたことについては理由はないと思うし、争いたいが、勝訴した場合原則として職場に戻るしかない、と言われれば、職場での居づらさを考えて法的手続きをあきらめる、と考えるのももっともであり、そのため、明らかに不当に解雇されても泣き寝入り、という場合も多いのです。
ましてや、雇用情勢が上向いてきた現状では、時間をかけて争うよりも新しい職場を探そう、ということになりがちです。

会社側にとっても、敗訴した場合に、すでに信頼関係が破壊された従業員をどのように処遇するかは、難しい問題であり、会社全体の士気にも関わる問題ですし、なにより紛争が長期化した場合、最終解決までの間の賃金の支払い義務が発生する可能性があるなど、いったん解雇という選択をしてしまえば、それによるリスクが読めないという問題も生じます。

そこで、厚生労働省は、従業員が職場復帰を求めない代わりに金銭による補償を請求する訴えを認める法律を制定することを検討しているのです。

現行の制度でも、紛争当事者が合意すれば和解金の支払いという形での解決は可能なのですが、和解金は、月収の数カ月分から年収の5年分など大きなばらつきがあります。
これは、会社側の従業員を退社させたいという希望の強さや、従業員が会社に復帰したいという意思の強さによって大きく影響を受けているということだと思われます。
そのため、厚生労働省は、企業が解雇紛争の解決にかかる費用を予測できるよう補償額に基準を設ける必要があると判断したようです。
補償額の下限は、今のところ年収の2年分ということになっているようです。

この制度の導入には、主に労働組合側から解雇の乱発を招くとの批判があり、どのような結論になるかは不透明です。
しかし、企業側にとっては、現状では、解雇リスクが高いことにより正社員の採用を控えがちになるという面もあり、そのような不都合を解消するためには、このような制度の導入は有効であると考えます。