マンションの住込み管理員の労働時間についての判例
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平成18年2月3日、東京地裁において、マンションの住込み管理員が、実作業に従事していない不活動時間も全て労働時間にあたるとして、時間外労働に対する時間外手当の支払を請求した事案について、時間外の作業の指示が認められないとして、不活動時間の労働時間性を否定し、時間外手当の請求を認めないという判断がなされました。
住込み形態での夜間の労働時間については、ビル管理会社の宿直警備員の仮眠時間について労働時間であるとした平成14年2月28日付けの最高裁判決(大星ビル管理技術員割増賃金請求事件)があることから、その最高裁判例との関係が問題になります。

大星ビル事件において、最高裁は、仮眠時間中は、労働者が実作業に従事していないことを認めつつ、それだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる、としています。
そして、大星ビルの管理技術員については、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていることを重視して、仮眠時間中は全て指揮命令下に置かれているものとして、当該時間は労基法上の労働時間にあたると判断しました。

本件については、裁判所は、マンションの住込み管理員は、その執務場所である管理員室内に私的空間である住居を併せ有するという点で、執務場所と住居を別にする通勤管理員と異なることを指摘しつつ、本来所定労働時間外の時間帯は、労働から解放された時間であって、住居たる管理員居室内で過ごそうと、外出しようと自由な時間であるはずであって、このような場合には、使用者の指揮命令下に置かれていない私的な時間というべきであり、原則として労働時間ということはできない、と判断しています。
具体的には、(1)管理委託契約で執務時間が明確に定められていること、(2)管理事務所前の掲示に管理事務所の受付時間が明示してあること、(3)管理員業務マニュアルには時間外の作業の記載のないこと、(4)管理委託契約においては、「緊急事態の発生したときその他やむを得ない場合においては当該時間以外に適宜執務するものとする。」との定めがあるが、急用のある居住者において、ビル管理会社に直接連絡する方法がある、などの事情を認定し、時間外の作業の一般的な指示があるとは認められない、と認定しました。

この判決では、不活動時間の労働時間性は否定されましたが、仮に管理委託契約や管理マニュアルの内容が本来の労働時間外の作業を前提としていたり、実際の勤務態様が本来の労働時間外の作業が常態化しているものであったりすれば、労働時間性は当然認められると考えられます。
一方、本当に、管理員に時間外の労働を原則として期待していないのであれば、なぜわざわざ住居をマンション内に設定する必要があるのかという疑問もあり、今後の判例の動向が注目されます。