<ポイント>
◆会社側に有利な労使慣行は認められにくい点に注意が必要
◆就業規則の変更については労働契約法に規定あり
◆労働条件を変更するときは就業規則の変更を!
今回は、賃金改定手続きについての裁判例(大阪高裁平成28年10月26日)を紹介します。
ある会社において、賃金を14%減額することを労働組合と合意し、それに基づいて給与を支払ってきたところ、これらの合意内容については、組合との間で協定書等の書面は作成されているものの、就業規則等の改定等の手続きが一切取られていなかったこと等を理由に、従業員から未払い分の賃金の支払いを請求された事案です。
今回は、この判例のなかで、賃金の改定の手続きについて解説したいと思います。
なお、この事案においては、給料減額についての会社と労働組合との合意(労働協約)の効力自体は認められたのですが、合意の効力成立時には、給与を請求した従業員は組合を脱退しており、そのためにこの従業員については、会社と組合との労働協約の効力は及ばないとされています。
それを前提に、就業規則の変更手続きがなされていなかったことが、賃金改定の効力にどのような影響を与えるのかが主な争点となりました。
会社側は、組合との協議あるいは従業員との意見交換を踏まえたうえで、社内報による周知により賃金改定を行うという労使慣行が成立すると主張し、それにより就業規則の変更という効力が生じると主張しました。
しかし、裁判所は、労使慣行は、就業規則、労働協約などの成文の規範に基づかない集団的な取扱いが長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して、事実上の行為準則として機能する場合の問題であり、成文の規範であり所定の手続きが必要とされる就業規則の変更の効力がこのような労使慣行により直ちに生じるものとは認めがたい、と判断し、他に賃金の減額の効果が発生したと認める理由がないとして、会社に対して未払いとなっていた賃金の支払いを命じました。
なお、就業規則の変更については、労働契約法10条によって、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等の交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働条件は変更後の就業規則の定めるところによるものとする、とされています。
つまり、裁判所は、法の定める労働条件の変更の条件である、就業規則の変更については、厳格に手続きを履践することを求め、会社側に有利な労使慣行の成立を認めませんでした。
労使慣行については、その成立が裁判で認められる場合もあるのですが、労働者側に有利な内容の労使慣行が認められる場合はあるものの、その逆に、会社側に有利な内容の労使慣行が認められる事例は、私が今回調べた限りでは見あたりませんでした。
そのことからすれば、労使で協議して労働条件の変更を行い、そのことが長年の慣例になっていたとしても、会社としては、安易に会社側にとって有利な労使慣行があると判断することなく、法律に定められた手続きを履践するべきことに留意する必要があります。