住友生命における既婚女性の昇給・昇格差別事件について
【関連カテゴリー】

【事案の概要】
住友生命の女性社員12人が「既婚であることを理由に昇給や昇格で差別された」として、同社に対し、未婚女性との差額賃金の支払いなどを求めた事件の判決が、平成13年6月27日、大阪地裁において言い渡されました。
裁判所は、「既婚を理由に一律に低く査定するのは、人事権の乱用である」などとして全員に違法な差別があったことを認め、住友生命側に差額賃金や慰謝料など総額約9000万円を支払うよう命じました。
本判決は、男女雇用機会均等法の整備や、育児休業制度の整備等、男女共同参画に向けた様々な法整備が進むなか、まだまだ女性の雇用についての意識改革が遅れていると言われる日本の企業に対し、厳しい姿勢を示したものと言えます。

【本件の争点】
住友生命側は、訴えに対し、「既婚女性は産前産後休業や育児時間の取得、家庭責任の負担で、労働の質、量が大きくダウンする。昇格の差はあくまで公正な人事考査に基づくもの」と反論していました。
裁判所は、この主張を「産前産後休業などの取得を理由に既婚女性を低く査定するのは、労働基準法で認められた権利の行使を制限し違法」と退けました。
つまり、法で定められた権利を行使することを理由に考査を低くすることは許されないことを明言したのです。
さらに、裁判所は、全体として「既婚女性と未婚女性とで昇格に顕著な格差がある」としたうえで、12名中9名について、未婚女性と同程度の役職に昇格させるべきだったと認めたほか、残り3人も「既婚を理由に不当に低く査定された」として、一人あたり約140万円から1150万円の損害を認めました。
また、結婚や妊娠、出産時に強い退職勧奨や上司からの嫌がらせがあったことも認定しています。

【本件の背景】
女性の高学歴化等に伴う少子化が進むなか、また、男女の雇用環境の平等を実現することについての日本企業の遅れに対する国際的な非難を受けて、女性が出産や子育てをしながらも働き続けることができる環境作りを目指して、様々な法整備がなされつつあります。
具体的には、労働基準法により、6週間の産前休業、8週間の産後休業を定めるとともに、男女雇用機会均等法により、男女間の差別的取り扱いの禁止のほか、結婚や妊娠・出産を理由にした女性の解雇を禁止しています。
また、育児・介護休業法でも1歳未満の子を養育するための育児休業の取得を認めるとともに、育児休業取得を理由にした解雇を禁じています。
しかし、厚生労働省によると、昨年度、都道府県の雇用均等室に救済を申し立てた98件のうち、妊娠や出産を理由にした解雇が53件、結婚を理由にした解雇が9件と、依然既婚女性への不当な扱いが続いていることが明らかになっています。
このような実態の要因としては、長引く不況下で企業が経済効率を最優先するという姿勢を強化しているということも考えられますが、男女共同参画社会実現についての企業側の意識改革が遅れていることが大きいといわざるをえません。

【まとめ】
本件のように、人事考査という企業内部の実態がつかみにくい事案について、裁判所が企業の対応の違法性を認定した意味は大きいといえます。
採用時に、結婚あるいは妊娠の際には退社することを約束させたり、そのような慣行を盾に職場に居づらくさせるような企業内部の運用についても、今後の改善が強く望まれるところです。