前回、企業の内部告発について解説しましたが、それと似ているが、趣旨・目的が異なるものに「内部通報システム」があります。
内部告発は、社員(下請け業者なども含む)が社内のマイナス情報を外部に通報することで、その通報先は、監督官庁、消費者団体、労働組合、報道機関、警察などです。
それに対して、内部通報システムは、同じく社内のマイナス情報を社員が他に通報する場合ですが、その通報先が、社外ではなく、社内の通報受け皿窓口である、という点が異なります。
内部通報システムの受け皿窓口は、通常の職制とは別に(バイパス的に)設けられた社内の特別の部署です。
内部通報システムの眼目は、社員から外部にいきなり内部告発が行われることを防止するための制度であるということです。
社内に違法状態が行われていることを知った社員は、本来は職制に従って、上司に報告・相談し、上司はその上の管理職や法務・人事部門に報告・相談する、そして、課内の問題は課内で、部内の問題は部内で、工場内の問題は工場内で解決する、つまり問題が発生したそれぞれの部門内部で解決する、これが原則です。
しかし、往々にして、この自浄機能が不全に陥り、部門内解決を困難にします。
例えば、管理職自身が違法行為(とくに故意による違法行為)を行っている場合、または管理職が部下の社員に違法行為を強要しているような場合は、その下にいる社員は「職制に従った報告・相談による内部解決」をめざすことが困難になります。
まして、役員が関与する違法行為やいわゆる組織ぐるみの違法行為(例えば粉飾決算)の場合は、一般社員(例えば経理課員)が職制に従った行動によって事態を糺していくなどということはとうてい不可能です。
だからと言って、社員がいきなり内部告発によってその不祥事を外部に通報すれば、会社全体が大きなダメージを受け、違法行為に何ら関与していなかった多くの社員まで不利益を被る事態になりかねません。
そこで、違法行為を知った社員が職制に従った通報でもなく、外部への内部告発でもない、第三の通報ルートを利用できるようにする、これが、内部通報システムです。
その通報の受け皿(ホットラインなどと呼ばれます)は、法務部や総務部内に設けられる場合、通常の組織から独立性をもたせた「コンプライアンス委員会」とする場合、外部の弁護士を窓口とする場合、などがあります。
このシステムの目的は、あくまで、会社内の問題(不祥事)は会社内部で解決し、内部告発などによって会社が大きなリスクにさらされないようにすることで、企業のリスク管理の一環として今や多くの企業で採用されています。
このシステムの具体的な運用に当たっては、次のような配慮も行われています。
1 利用できる社員の範囲を広くする。正社員に限らず、派遣社員、アルバイト、業務委託先や子会社の社員等まで含めることが多いようです。
2 匿名での通報を認める。通報する場合の抵抗感を減らす効果があります。但し、ガセネタも多くなります。従って、匿名を認めない会社もあります。
また、外部の弁護士を受け皿として、弁護士には名をあかすが、本人の希望があれば、弁護士から会社には匿名扱いとする、というケースもあります。
3 通報内容の限定について。この制度の趣旨に反するような個人的誹謗中傷や経営に関する意見などをあらかじめ制限するルールを設けている場合があります。しかし、はじめから門を狭くするのは適当でありません。ガセネタが多くても、中に一つでも、重要で会社を転覆させかねない情報があったとすれば、このシステムは有用だと考えるべきです。
4 通報者へのフィードバックについて。通報の内容が調査やその後の是正処置を必要とする場合、その経過や結果を通報者へ報告することも必要なことです。
5 通報者の利益保護について。匿名の場合でも、調査の過程で通報者が自然と特定できるようになる場合があります。通報者がわかったとしても、通報したことによって、その者が会社や上司から嫌がらせを受けたり、不利益な処遇をされないような手当をしておくことも必要です。
逆に、通報者自身も違法行為に関与していた場合は、通報によってその責任を減免するという取扱いがなされているケースもあります。