<ポイント>
◆最高裁は賃金規則を無効とはいえないと判断
◆一、二審判決では賃金規則は無効とされた
◆歩合給制を採用する会社への影響が大きい判決
今回は、タクシー乗務員らが、運転手らの歩合給から残業代を差引く賃金規則が無効であるとして、タクシー会社を提訴した事件についての最高裁判例(平成29年2月28日・国際自動車事件)をご紹介します。
このタクシー会社では、基本給等のほか、売上げに応じて一定の歩合給を支払う旨の歩合給制を採用しており、賃金規則においては、運転手に時間外手当、休日手当、深夜手当等の割増賃金が発生した場合、その割増賃金額と同額を歩合給から差引くことが定められていました。
これに対して、タクシー乗務員らが、給与規定のうち、歩合給から残業手当等を差引く定めは残業代等の割増賃金を支払う雇用主の義務を定めた労働基準法37条の趣旨に反し、ひいては、公序良俗に反するものとして無効であるとして、差し引かれた残業代等の支払いを求めて提訴しました。
そして、裁判所は、一、二審とも、運転手らの主張を認め、タクシー会社に対し、残業代等の支払いを命じました。
今般、最高裁は、原審の判断を覆し、歩合給から残業代等を差引く定めが当然に公序良俗に反し無効であると解することはできないと判断し、再度審理をするよう原審に差し戻しました。
その理由としては、労働基準法37条は、雇用主に対し、法で定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務づけるにとどまり、労働基準法37条等に定められた算定方法と同一の労働契約を行い、これに基づいて割増賃金を支払うことまでをも義務づけるものとは解されないから、としています。
すなわち、割増賃金相当額分の歩合給が減額されるにしても、労働基準法37条により定められた方法により算定した割増賃金相当額が支払われているのであれば、違法ではない、と判断したのです。
この最高裁の立場は、法定の残業代等を支払っているのであれば残業代等相当額を差引いても問題はないとして、歩合給の支払額を決定する際の雇用主の裁量を広く認めたものともいうことができます。
歩合給制は、運送業界や営業職など中心に多くの業種や職種で採用されており、残業手当等を歩合給から差引くという運用も多く採られているようです。
そのため同種の紛争もみられ、この定めを有効とする地裁の判例が出るなど、裁判所の判断が分かれていたところ、今回、最高裁判所が、このような定めを有効としたことにより、実務上大きな影響があるものと思われます。