内部告発をした労働者に対する不利益取り扱いについて―公益通報者保護法に関連して―
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【来春に公益通報者保護法施行】
以前にも紹介させていただきました公益通報者保護法が(当メールマガジン2004年4月15日号・または栄光双書「ビジネス法務最前線!メールマガジン総集編 2004年1月~2005年5月」)、平成18年4月1日から施行されます。
それに先立ち、平成17年2月23日付けで、富山地方裁判所において、内部告発をした労働者に対し、会社が不利益取り扱いをしたとされた事案について、会社に損害賠償を命じた判決がでました(トナミ運輸事件)。
地裁判例ではありますが、公益通報者保護法施行後の事案の参考にもなるかと思いますので、ここに紹介させていただきます。

【公益通報者保護法の概要】
公益通報者保護法とは、企業の従業員・派遣労働者、下請企業の従業員、公務員などが、企業等の法令に違反する行為を告発した場合に、告発者に対する解雇の無効、降格や減給などの禁止、派遣契約解除の無効、などのルールを設けた法律です。
これは、労働者等が企業との関係では弱い立場にあることから、違法行為の告発により地位が脅かされないよう保証することにより、企業内のコンプライアンスを強化し、国民の生命・安全を守ろうというものです。

【トナミ運輸事件】
この事件の被告は、貨物運送等を営む株式会社であり、原告は、本件訴えの提起まで30年以上にわたり被告会社で勤務してきた労働者です。
原告は、昭和49年ころに、新聞社や公正取引委員会などに対し、被告会社が他の同業者との間でヤミカルテルを結んでいることなどを内部告発したことが理由で、その後、昇格できなかったり、個室に隔離して雑務のみに従事させられたりという不利益取り扱いを受けたとして、被告会社に対し、損害賠償請求を行いました。
被告会社は、原告が内部告発を行ったことが不利益取り扱いの理由ではないなど主張し、事実関係について争いました。
しかし、裁判所は、詳細な事実認定を行い、原告がヤミカルテルについて内部告発を行ったことが不利益取り扱いの理由であると認定しました。
また、使用者は信義則上、雇用契約に附随する義務として、合理的な裁量の範囲で人事権を行使すべき義務を負っているとし、その裁量を逸脱した場合はこのような義務に違反したものとして債務不履行責任を負うとしました。
そして、本件については、原告の内部告発は正当な行為であるから、被告会社がそれを理由に不利益な処遇を行うことは、その裁量を逸脱するものであって、正当な内部告発によっては人事権の行使において不利益に取り扱わないという信義則上の義務に違反したものであると認定しました。
結論としては、一部消滅時効にかかっているものとしつつ、慰謝料として200万円を認定し、財産的損害として、原告が差別を受けなかったならば得られたであろう賃金額と実際の賃金額との差額であるとして、原告の同期同学歴入社の者のなかで原告を除いて最も昇格が遅い者と実際に原告が得た賃金との差額の7割を、差別による損害であるとして約1000万円の損害を認めました。
結果的には、被告会社に対しては、弁護士費用110万円を加えた、合計約1350万円の損害賠償が命じられています。
公益通報者保護法は、違反の法的効果については明示の規定はありませんが、この事案は公益通報者保護法施行後の民事的処理の参考になるものと思われます。