<ポイント>
◆コンプライアンス体制を活かした情報収集と判断
◆契約書への「暴力団排除条項」挿入の検討
今年10月1日付の東京都と沖縄県での施行に伴い、全ての都道府県で暴力団排除条例が施行されました。
各々の条例は成立時期や地域の特性によってかその内容は少しずつ異なります。
条例の適用は当該都道府県の区域によって画されますので、経済活動が国内全域に及ぶ企業の場合、関係する条例全てを理解しておくのはかなり面倒です。
他方で、暴力団と関わり合いがあれば「公表」の措置などがとられるため、企業の信用に関わります。
ただ、警察組織など行政が民間企業に過度の負担を押し付けたり、弁護士等の専門家が徒に企業の不安をあおったりするのも正しくないでしょう。
従前どおり暴力団と関わらないとの毅然とした態度をとり、そのための社内体制を堅持し、判断に迷う事例があれば弁護士、警察等と連携をとって対処する等、組織としてぶれないでいれば、条例対応自体について特段に不安がる必要はないように思います。
今般の動きを機に、まずは本店所在地のある都道府県の条例に目を通すことをお勧めします。そうすることで対応のあらましを把握することができます。
その上で対応の一つの柱は社内の情報収集と経営陣による判断方法の確立です。
まずは総務・法務担当部署が下準備して、経営トップから全社に向けて暴力団排除のための呼びかけをすべきです。そこで核となるのは、暴力団を利用してはいけないこと、暴力団に利益供与してはいけないことの2点です。現場の従業員が条例に細かく精通している必要はないでしょう。常識的に考えれば、これはどうかなと取っ掛りを持つことはできるはずです。
疑わしい事例あるいは判断に迷う事例があれば、上長を通じ、あるいは総務法務部門に直接報告させるルートを作り、報告を義務付けるのが重要です。労働法違反や独禁法違反等と同様に、弁護士事務所を窓口とする「内部通報システム」をこれを機に新設し、あるいは活性化させるのは有効です。
もちろん経営陣自身が暴力団との取引に関与していてはいけません。取締役会の監督や監査を通じて明らかにされるべき事柄ですが、経営トップの見識が問われます。
企業規模にもよるでしょうが、コンプライアンス規程を暴力団排除条例の観点から必要な文言を補うなどして改正するのもいいかと考えます。もちろん新設を検討するのも有用です。
このような経営トップによる宣言、社内各所からの情報収集、そして判断の場面では、暴力団排除条例はむしろコンプライアンス維持強化のための、道具・武器になりえます。収集された情報について必要な限度で関連する条例を精査すれば、有効な手だてが打てるはずです。警察や行政と連携を図る手がかりも得られます。
もうひとつの柱は契約実務への対応です。
これを担うべきは総務・法務担当部署です。東京都の条例のように、事業に関わる契約一般について、暴力団排除条項導入の努力義務を課す条例が多々あります。今後の取引基本契約書においては、「契約の当事者が暴力団関係者であることが判明した場合には、その相手方は催告することなく当該契約を解除することができる」との文言が一般的に(つまり相手が信頼できると判断される場合であっても)導入されていくことが予想されます。
例えば大阪府の条例で一般的に暴力団排除条項を定めたものはありませんが、契約実務においてはそのような文言が一般化してくるものと考えます。
この点も、そのような条項を盛り込んでおくことで、いざというというときには解除という毅然とした対応がとれる法的根拠を得ますので、武器となります。
なお、契約の前段階において、暴力団関係者でないことを確認する努力義務を課すものもあります。東京都の条例だと「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合は」という限定つきですが、例えば和歌山県の条例では、そのような限定もなく、事業に関わる契約一般について確認の努力義務を課しています。実際問題どういうタイミングで、どのように確認すればいいか悩ましいですが、疑わしい兆候があれば社内で情報共有し、総務・法務部門で、弁護士とも相談しつつ、個別に判断していくのが現実的ではないかと考えます。
以上は企業一般における対応のポイントですが、不動産業者においては特別な考慮が必要です。「暴力団事務所の存在を許さない」(大阪府のチラシより)からです。
具体的には、暴力団事務所に使用されることを知って売買等をしてはならず、事前に確認すること、契約書に暴力団事務所の用に供さないこと・その用に供していることが判明したら契約を解除等できることの文言を契約書に挿入し、実際に解除等をするよう務めることが定められます(これらは不動産業者だけに限りませんが、そのような場面が多いでしょうから、特に注意が必要です)。
暴力団事務所の用に供されることを知って代理、媒介してもいけません。
なお兵庫県や和歌山県の条例などでは、暴力団事務所の用に供されることを知りながら、建設工事契約を締結してはならないともしています。
以上、あらゆる条例を網羅的に検討したわけではありませんが、企業の対応について主だった点を説明しました。企業規模に関わらず、何か手を打つべきとお考えの経営者、総務・法務担当者の方々の判断の参考にしていただきたいと思います。