インターネット上の書込みと名誉毀損
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インターネットの普及にともない、フォーラムや掲示板にさまざまな書込みがなされ、それがときに他人に対する名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、嫌がらせなどになります。
そして、それがある限度を越えると、法律的にも「不法行為」となり、損害賠償(慰謝料)を請求されるという問題に発展します。
この問題に関する最近の裁判例(東京地方裁判所、平成13年8月27日判決)を紹介します。

【事案】
ニフティサーブが運用するフォーラムで、AさんとBさんが言い争いをし、互いに不穏当な発言を書き込んだことから問題は発生しました。
二人の発言内容は判決文にくわしく記載されていますが、例えば、BさんはAさんのことについて次のように書いています。
「あなたの妄想特急の勢いにはほとほと感服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。精神的文盲というものが存在するのでするのでないかと思い始めた今日この頃です」「自称東大卒に至ってはむしろ同情しております」「禁治産者って裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?、証拠提示なき妄想申立を果たして裁判所が受理するか、私も非常に楽しみです(笑)」など。
AさんはこのBさんの発言に立腹し、これは自分に対する名誉毀損、侮辱に当たるとして、それにもかかわらずこれに対し適切な措置をとらなかったネットワーク管理者であるニフティに対し、慰謝料100万円を請求して裁判を起こしました。
Aさんが直接Bさんを訴えなかったのは、Bさんの住所氏名がわからず(「B」というのはいわゆるハンドル名で実名はわからない)、ニフティに尋ねても教えてくれなかったからです。
Aさんはニフティのこの態度にも立腹し、同じ裁判で、ニフティに対しBさんの氏名、住所を開示することも求めています。

【争点と裁判所の判断】
この事案でニフティに責任があるかどうかは、まずBさんの上記のような書込みがAさんに対して名誉毀損などの不法行為に当たるかどうかによります。
それが不法行為でないとすれば、ニフティの責任はそもそもないことになります。
これについて裁判所は次のように判示しました。
まず一般論として、インターネット上の表現が名誉毀損や侮辱になるかどうかは、(1)具体的な発言内容、(2)発言がなされた経緯、(3)前後の文脈、(4)被害者からの反論、などを考慮し、一般の読者からみて、相手の社会的評価を低下させる危険性があるかどうかによって判断すべきである。
そのうえで、Bさんの発言については、それ自体はAさんに対する侮辱的な表現であると認められる。
しかし、Aさんの側にも挑発的な発言があり、Bさんの発言はそれを契機に行われたものである。
またBさんの発言の直後に、AさんもBさんに対し侮辱的な発言をしている。
例えば、「私がBさんを暗に異常扱いしているのは、これは別物です。この人を私はネット犯罪者予備軍だと考えているからです。」など。
Bさんはこれらの発言に対する対抗手段(対抗言論)として上記のような発言をしたのであって、それは違法とは言えない。
またBさんの発言に対しAさんも必要かつ十分な反論をしていることからAさんの社会的評価が低下するおそれはない。
したがって、結局Bさんの発言はAさんに対する名誉毀損、侮辱とはならず、不法行為は成立しない。
これが裁判所の判断です。
そして、Bさんの発言が違法なものでないとすれば、ニフティがそれに対して何らの措置もとらなかったことも咎められるいわれはない、と判決は結論づけています。

【この判決の位置づけ」
ところで、この判決を見ても、インターネット上でのどのような発言が他人に対する名誉毀損や侮辱になるか、ということはすぐにはわかりません。
それぞれの事案ごとに、個別の事情を総合的に考慮しないと判断がつかないからです。
実際、これ以外の裁判例で、書込みが個人に対する名誉毀損やプライバシーの侵害に当たるとしたものもあれば、当たらないとしたものもあります。
しかし、上記判決が示している一般的な基準や、この事案において考慮された具体的事実は同種の問題が発生したときの一つの参考になると考えられます。

【ネットワーク管理者の責任】
なお、ネットワーク管理者(接続業者)に責任があるかどうかについては、その責任を認めた判決もあり、責任はないとした判決もあります。
これに関し、東京地方裁判所平成11年9月24日判決は次のように述べています。
「ネットワーク管理者は名誉毀損文書が発信されていることを現実に認識した場合においても、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること、被害の程度が甚大であることが一見して明白である場合に限り、被害者に対し発信させないようにする義務を負う。」