【法律制定の背景】
特定の相手につきまとったり嫌がらせを繰り返す「ストーカー行為」が社会問題化しています。
全国の警察に寄せられたストーカー行為に関する相談件数は、平成9年、10年は約6000件でしたが、平成11年には8021件と増加し、さらに今年は上半期(1~6月)だけで既に1万件を超えています。
このようなストーカー行為が次第にエスカレートして、殺人や傷害などの凶悪事件に至るケースも発生しています。
ところが、これまではストーカー行為を法的に定義して取り締まる法律がなかったために、警察は被害者からの相談があっても、それがつきまとい等に留まっている限りは取り締まるのが難しいのが現状でした。
そこで、ストーカー行為の被害者に対する殺人、傷害等の犯罪を未然に防止し、国民が安心して平穏に暮らしていける状態を確保するために、平成12年5月18日「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」が制定されました。平成12年11月24日から施行されます。
【法律で禁止される行為ー「つきまとい等」】
法律で禁止されるのは次のような行為です。
(1)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校などの場所(住居など)の付近において見張りをし、または押し掛けること。
(2)その行為を監視していると思われるような事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと。
(3)面会、交際などを要求すること。
(4)著しく粗野または乱暴な言動をすること。
(5)電話をかけて何も告げず、または拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはFAXを送信すること。
(6)汚物、動物の死体その他著しく不快または嫌悪の情を催させる物を送付し、またはその知りうる状態に置くこと。
(7)その名誉を害する事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと。
(8)その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知りうる状態に置き、またはその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくは知りうる状態に置くこと。
ただし、法律は動機の点で禁止の範囲を限定しています。つまり「特定の者に対する恋愛感情などの好意感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」でこれらの行為を行った場合のみを禁止しています。(1)や(3)などは正当な取材目的やビジネス目的でなされる場合があるからです。
また、例えば恋愛感情で面会・交際を要求することを全て禁止するとなるとあまりに国民の自由を奪うことになるので、法律が禁止するのは(1)~(8)の行為によって、相手に身体の安全、住居の平穏、名誉が害され、行動の自由が「著しく」害されるという不安を覚えさせる行為に限定されています。
【ストーカー行為】
そして、これら「つきまとい等」を同一の者に対して繰り返して行うことを「ストーカー行為」として定義しています。「ストーカー行為」をした者は、6月以上の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。したがって、警察は「ストーカー行為」の容疑でその者を逮捕することも可能です。この場合、被害者が警察などに対して告訴の手続をとっておく必要があります。
法律は「ストーカー行為」を処罰の対象としたのです。
【警告】
もっとも、問題の行為が「ストーカー行為」に至らない「つきまとい等」の段階でも、警察などが一定の措置を取ることができる点がこの法律の大きな特徴です。
「つきまとい等」の被害者が警察に申し出れば、その事実が認められ、繰り返されるおそれがある限り、警察はその相手に対してつきまとい等の行為を繰り返してはならないと警告することができます。但し、この警告段階は、あくまで相手が自発的に行為を止めることを期待するものです。
【禁止命令】
にもかかわらず、その相手が警告に従わずに、同じ行為に及んだときは、都道府県の公安委員会が、相手の弁明の機会を与えた上で、その行為を更に繰り返してはならないと禁止命令を出すことができます。
それでもこの禁止命令に反して更に行為に及んだ場合には、最高で1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられるのです。当然、警察はその者を禁止命令違反の容疑で逮捕することも可能です。
【仮の命令】
このように法律は原則として2段階の手続を設けていますが、被害者が警察に被害を申し出た際に既につきまとい等がエスカレートしており、被害者に危険が切迫している場合もあり得ます。
このように警告・禁止命令という手続を踏まずに緊急の必要がある場合は、警察は仮の禁止命令を出すこともできます。その効力は15日間に限られており、その間に公安委員会が仮の命令が不当でないと認める限り前項の禁止命令を出すことができます。
【警察・国・地方公共団体等の支援】
警察は被害者からの申し出があった場合には、電話録音や相手の行動の記録の方法を教え、防犯ブザーを貸与し、相手との交渉場所として警察施設を利用させるなどの必要な援助を行い、当然パトロールを強化して被害防止に努めなければなりません。
法律は国・地方公共団体にも被害防止の支援策に努める義務を課すとともに、関係事業者・地域住民にも援助を求めています。
この法律をふまえて警察ではストーカー被害に遭っている人に対して被害が深刻になる前に最寄りの警察署への相談を呼びかけています。警察は国民の期待に応える責務を負っていると言えます。