<ポイント>
◆報告書では今後の会社法改正に向けて論点整理がなされている
◆前回改正時から論点であった社外取締役選任義務付けには慎重な意見もある
商事法務研究会「会社法研究会」が今後の会社法改正に向けて検討を行った内容が報告書として公表されました。旬刊商事法務2129号のほか商事法務研究会のウェブサイトに掲載されています。
この報告書は建前としては私的な研究会によるものですが、実際上は法務省・法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会での今後の審議にも影響してくるものとみられます。
経緯としては、平成26年改正会社法の附則において、改正法施行後2年経過後に社外取締役選任の義務付け等の措置を講じるか検討するものとされていました。
その2年がもうじき経過するということで、今年2月の法制審議会総会で会社法改正が取り上げられました。会社法研究会報告書はそうした時期に公表されています。
2月の法制審議会への諮問事項をみると「企業統治等に関する規律の見直しの要否」を検討することとなっており、そのための論点の例示としては、株主総会手続の合理化、役員へのインセンティブ付与のための規律、社債管理のあり方の見直し、社外取締役選任の義務付けの要否といったことがあげられています。
前回改正時の附則では社外取締役選任の義務付けだけが例示されていましたが、今後、他の事項を含めてずいぶんと多くの論点が検討されることになります。
会社法研究会報告書では、たとえば株主総会手続の合理化に関しては、総会資料の電子化に向けた新制度の導入や、濫用的な株主提案権行使の制限のための改正を行ってはどうか、という言及がなされています。
事の発端ともいうべき社外取締役選任の義務付けの要否については、会社法研究会では見解の一致にまで至らなかったようであり、「社会経済情勢の変化等を勘案し、引き続き検討することとしてはどうか」という言及にとどまっています。
コーポレートガバナンス・コードの施行などにより、現在では東京証券取引所の上場企業における社外取締役の選任比率は95%超にまで達しています。
しかし、そうした状況下であえて社外取締役を選任せずにいる少数の企業にまで社外取締役選任を法律で強制することは適切ではない、といった消極意見も会社法研究会のなかではみられたようです。
また、多くの上場企業が社外取締役を選任するようになってから間がない時期であり、企業の業績への影響などの効果を検証していく必要があるといった指摘もみられたとのことです。
民法、会社法といった基本法の大改正が予定されていますが、それらの検討内容をみていると、少し落ち着いて受け止めるという姿勢も必要なのではないかと思うことが少なくありません。