企業が「社債型」優先株式を発行して資金調達するケースがみられます。
2008年11月に三菱UFJフィナンシャル・グループが3900億円、12月にイー・アクセスが23億円をこの方法により調達しました。
「社債型」優先株式というのは、配当などについて普通株式よりも優先的な取り扱いをされる優先株式のうち、普通株式への転換がなされないものをいいます。
優先株式は、企業の資本増強やデット・エクィティ・スワップ(負債の株式化)などの場面でよく利用されています。優先的に配当を受けることができる見返りとして議決権がないこととされるほか、通常は、会社側あるいは優先株主側の判断により普通株式に転換されるものと定めておきます。
これに対して社債型優先株式の場合には、普通株式への転換がなされないこととなっています。
将来に払い戻し(償還)がなされることについては、通常の優先株式も社債型優先株式も共通です。
普通株式への転換は、会社側からみると、優先配当の負担を解消する意味をもちます。優先配当のために資金を確保しないといけない状態がつづくことは負担になるので、会社は将来的には優先株式をなくしたいと考えています。普通株式への転換がなされればもはや優先株式ではないので、会社は優先配当の負担から解放されます。
また、優先株主からみると、優先株式のままでは売却が困難なので、市場で売却して投下資本を回収できるよう普通株式に転換する権利をもっておきたいと考えています。
このように、会社側、優先株主側のそれぞれにとって普通株式への転換を定めておくことには意味があります。
しかし、優先株式が普通株式に転換されると議決権が生じますから、他の株主の議決権割合が低下します。大量の優先株式が普通株式に転換されることで、支配株主の交替につながる事態も生じうるのです。
これに対して社債型優先株式の場合、普通株式への転換はなされませんので、他の株主の議決権割合の低下という事態は生じません。近時、大規模な増資の際にいかに既存株主の保護をはかるかが問題とされています。社債型優先株式の発行によれば、大規模な資金調達であっても議決権割合の維持という観点では既存株主を保護できることになります。
上記の2社とも、社債型優先株式の発行という資金調達方法を選んだ理由として、既存株主の議決権割合を維持できることをあげています。
社債型優先株式も将来に払い戻し(償還)がなされることは先ほど述べました。払い戻しにより、会社は優先配当の負担を解消できますし、優先株主は投下資本回収できることになります。
通常の優先株式であれば、会社あるいは優先株主は転換・償還のいずれか有利な方法を選んで権利行使すればよいことになります。これに対して社債型優先株式の場合は、もっぱら償還という方法によることになります。
「社債型」の優先株式であることを強調するくらいなら、いっそのこと社債を発行して資金調達すればよいのではとも思えます。
しかし、社債では自己資本にならないのに対し、優先株式であれば自己資本になるという違いがあります。社債により多額の資金調達を行うと自己資本比率が低下してしまいますが、社債型優先株式であればこれを回避できます。
以前にも、種類株式の利用により企業が多様なメニューで資金調達できるようになることをご説明しました。(当職執筆の法律情報「種類株式を活かしたベンチャー企業の資金調達」をご参照ください。)
社債型優先株式も、種類株式の利用により可能となった資金調達メニューのひとつです。