倒産状態にある企業を再建するために「100%減資」という手法が用いられることがあります。100%減資というのは「資本関係の全面入れかえ」です。従来の株主の権利を全面的に失わせる一方で、スポンサーが出資して新たに株主になります。
従来の株主の権利を失わせるのは、会社を倒産させたことに関して株主に責任をとらせる意味をもちます。倒産手続のなかで債権者は一部しか回収できず損害を受けるのに、株主が権利を維持したままというのは妥当ではありません。
また、もとの株主が発言権をもったままではスポンサーと見解がくいちがって対立するおそれもあります。このままではなかなかスポンサーについてもらうことができません。
スポンサーの支援を仰ぐ意味でも、従来の株主には退場してもらう必要があります。
100%減資を実施する場合、典型的には次のような手続を一斉に行うこととなります。
会社法が施行される前の旧商法時代とは手続が異なっています。
(1)会社による発行済み全株式の取得
会社自身が発行済み全株式を株主から強制的に取得します。これにより、従来の株主は権利を失います。
倒産した会社の株式なので経済的に無価値であり、代金は支払われません。
(2)スポンサーによる出資(自己株式の処分)
スポンサーが新たに出資して株主になります。この際に、新株発行ではなく、会社が(1)で取得した自己株式をスポンサーに売り渡すこととします(自己株式の処分)。
自己株式の処分とすることで、資本金と発行済み株式数を増加させずに済み、商業登記費用(登録免許税)を節約できます。
(3)資本減少(おまけ)
100%減資に際して、多くの場合は資本減少を行います。
ただしこれは欠損(累積赤字)の補てんのために行うもので、100%減資において必須というわけではありません。
会社更生や民事再生を行う場合、株主総会を開かずにこれらの手続を実施できます。
会社更生や民事再生を行わずに100%減資を行う場合は、株主総会で全部取得条項付株式という特殊な内容の株式を導入して上記のような手続を行うこととなります。
さて、この記事のはじめに、100%減資とは「資本関係の全面入れかえ」であると定義しました。100%減資というのだから、資本金を全面的に減少させることが必須なのでは?という疑問があるかもしれません。
確かに欠損の補てんのために資本減少を行うことが多いものの、これは100%減資で必須の手続ではありません。
100%減資を行う企業は破たん状態にあり、剰余金がマイナスになって欠損を生じているのが通常です。このままでは配当もできずスポンサーがつきにくいです。
資本金を減少させると、とりくずした額で剰余金のマイナス(赤字)を補てんでき、欠損を解消できます。
ただ、資本減少をしなくてもスポンサーが出資してくれるならば資本減少は必須ではありません。
たとえば、民事再生や会社更生で負債がカットされると多額の免除益を生じますから、これにより欠損がふきとび資本減少を行う必要がないこともありえます。
100%減資において資本減少は不可欠の手続ではなく、欠損解消のために資本減少するケースが多いにすぎません。
結局、上記でみた(1)から(3)のうち、100%減資に不可欠の本質的内容は、(1)で従来の株主の権利を失わせることと、(2)でスポンサーが新たに株主になることの2点です。100%減資を「資本関係の全面入れかえ」と定義したのはこのためです。
(3)は必須ではないので「おまけ」としました。
減資しないこともあるのに100%減資という紛らわしいネーミングになっているのは、会社法が施行される以前の旧商法時代の名残りです。
旧商法時代には、従来の株主から個々に同意をとらずに強制的にその権利を消滅させるために、資本減少を行いその手続のなかで株式を消滅させる必要がありました。あくまでも目的は従来の株主の権利を失わせることであり、資本減少はこうした目的達成のための手段として行われていました。
これに対し、会社法では、資本減少は単にバランスシート上で数字をつけかえることとされており、株主の権利には影響がありません。資本減少をしても欠損補てんに役立つだけで、株主の権利を失わせることにはならないのです。株主の権利を失わせるためには、(3)の資本減少ではなく(1)の自己株式取得が必要です。
なお、会社法下では、会社が自己株式として取得せずに株主が権利を有したままの状態で株式を消滅(消却)させることは認められていません。
以上でみたように「100%減資」というのは今ではミスリーディングな用語ともいえます。
「100%無償消却」と表現しているケースも見られますが、(1)で会社が発行済み全株式を取得しても当然に株式自体が消滅するわけではありませんし、残った自己株式を消滅させるか否かは資本関係の全面入れかえとは関係がありません。「100%無償取得」のほうが本質をついた表現かもしれません。
ただ、「100%無償消却」にせよ「100%無償取得」にせよ、聞きなれない用語であり、関係者にイメージをつかんでもらうために説明に工夫を要します。
このため、ミスリーディングを承知のうえで便宜上「100%減資」という表現が今でも用いられています。