12月13日、23日の日経新聞によれば東京証券取引所は新株予約権の無償割当てに関する規則を改正する予定とのことです。その目的は、既存株主の権利を薄めることなく増資による資金調達ができるようにすることです。
株式会社は資金調達のために新株発行を行うことがあります。
新株発行の方法としては、不特定多数の投資家に応募を求める方法(公募)、関係先企業など特定の者に割り当てる方法(第三者割当て)、全株主に平等に割り当てる方法(株主割当て)があります。上場会社が通常行っているのは公募と第三者割当てです。
しかし、公募による場合、既存株主はそれ以外の投資家に優先して新株を取得する権利はありません。また、第三者割当てによる場合、既存株主は新株を取得する機会すらありません。
いずれにせよ、発行済みの株式数が増えることによって既存の株主の権利は薄まることになります。
東京証券取引所は、冒頭に述べた目的のために新株予約権を容易に利用できるようにする意向です。
新株予約権とは、権利者があらかじめ定められた期間内に、あらかじめ決められた価額を会社に払い込めば、会社から一定数の当該会社の株式の交付を受けることができる権利です。
新株予約権が行使された場合、会社は予約権行使者に対して新株を発行するか金庫株を交付します。新株を発行する場合、会社は予約権行使者が支払った価額の全部または一部を資本金として資本に組み入れて資本金の増加すなわち増資をします。
このように増資の手段として新株予約権を発行することがあります。
新株予約権を発行する場合でも、結局は新株を発行するのですから発行済みの株式数が増えます。それにも関わらず、新株予約権による場合には、なぜ、既存の株主の権利は薄まるという弊害が除かれるというのでしょうか。
新株予約権を発行する方法として全株主に無償で割り当てる方法があり、これにより既存株主はそれ以外の投資家に優先して新株を取得することができます。
また、新株予約権を上場する制度が整備されれば既存株主は新株予約権を市場で売却することができます。このように換金できることになれば、新株を取得しない株主にとって、株主割当てによる新株発行の場合には単に権利を失うのに比べて大きなメリットがあります。
このように全株主に新株予約権を発行することにより、通常の新株発行に比べて、既存の株主は自分の持ち分を維持するための方策がとりやすくなります。
ただし、会社法上、全株主に新株予約権の割当てをする場合、会社は株主の保有する株式数に応じた割合で新株予約権を発行しなければなりません。
また、東京証券取引所の有価証券上場規程及びその施行規則では、上場できる新株予約権は全株主に平等割合、無償で割り当てられ、かつ1個の新株予約権につき1株が交付されるものでなければなりません(その他にも制限はありますが割愛します)。さらに、上場会社は流通市場に混乱をもたらすおそれ又は株主の利益の侵害をもたらすおそれのある新株予約権無償割当てを行ってはならないという規則もあります。
上場会社の全株主に新株予約権の無償割当てをする場合、会社法や証券取引所規則に反することのないように1株について1個の新株予約権を割り当て、1個の新株予約権を行使すると1株を引き受ける仕組みにすると、新株予約権の行使により発行済み株式数は倍になってしまい、増資方法としては使い勝手の悪いものとなります。
今回の東京証券取引所の改正では、新株予約権1個につき1株が交付されるものでなければ上場できないという制限を撤廃するとのことです。たとえば、既存株主が有する株式数と同数の新株予約権を割り当てつつ、その新株予約権が行使された場合には新株予約権10個につき1株が発行されるという仕組みを採用すると、発行済み株式数は最大10%しか増えません。もちろん、新株予約権の割当てを受けた既存株主が新株予約権を行使して新株が引き受けないと増資ができませんが、改正により、企業の資金調達メニューの選択肢が一つふえることになります。