有償ストック・オプションについて
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<ポイント>
◆新興市場上場会社を中心に有償ストック・オプションの発行が増加
◆有償ストック・オプションでは取得者は公正な評価額を会社に払い込む
◆株主総会決議不要、業績向上のアナウンスメント効果などのメリットがある

上場している会社が、役員、従業員に新株予約権を発行することがあります(子会社の役員、従業員も対象となることがありますが本稿では割愛します)。
新株予約権とは、権利者があらかじめ定められた期間内に、あらかじめ決められた価額を会社に払い込めば、会社から一定数の当該会社の株式の交付を受けることができる権利です。
会社の業績を向上させ株価を上昇させることに対し役員、従業員にインセンティブがはたらくことを期待して、役員、従業員に新株予約権を与えることがあります(本稿では、このような目的で役員、従業員に対して発行する新株予約権を「ストック・オプション」と呼びます)。
ストック・オプションの取得者が対価を支払う場合と支払わない場合がありますが、従来の多くの場合、対価を支払わない無償でのストック・オプションの発行が行われてきました。
これに対して、近年、マザーズやジャスダックなどのいわゆる新興市場に上場している会社を中心に、取得者に対価の払い込みを求めるストック・オプション(いわゆる「有償ストック・オプション」)が発行される例が増えてきました(以下は上場会社を念頭において述べます)。

ストック・オプションを含む新株予約権は、公正な評価額で発行される場合と公正な評価額を下回る価額など特に有利な条件で発行される場合(「有利発行」)があります。
新株予約権の公正な評価額については市場関係者などに広く受け入れられている計算方法があり、それによって計算することができます(ブラック・ショールズモデルなどがありますが、ここではこれ以上立ち入りません)。
有利発行の場合は株主総会の特別決議が必要ですが、公正な評価額での発行の場合には取締役会の決議で足ります。
よって、従業員に対して無償でストック・オプションが発行される場合、従業員の労務の対価として発行されるのであれば、ストック・オプションは公正な評価額での発行となり取締役会決議で足ります。
しかし、役員に対して無償でストック・オプションが発行される場合、役員の職務執行の対価としての発行すなわち公正な評価額での発行であっても株主総会の決議が必要です(定款に定めがある場合を除く)。
役員の職務執行の対価すなわち役員報酬は株主総会の決議事項だからです。
ただし、役員が公正な評価額をストック・オプションの対価として会社に支払うのであれば、有利発行でも、役員報酬としての発行でもないので、取締役会の決議で足ります。
このように、有償ストック・オプションの「有償」とは、いくらでもいいのではなく、公正な評価額を意味します。

役員、従業員に業績向上、株価上昇に対するインセンィブを与える目的であれば、会社は従来から発行されている無償のストック・オプションを採用してもいいし、むしろ役員、従業員にとってはその方が有利かもしれません。
それにも関わらず、有償ストック・オプションを採用するメリットは何でしょうか。
無償のストック・オプションは、役員にとっては職務執行、従業員にとっては労働の対価として発行されます。
そのため、会社が役員、従業員に無償でストック・オプションを発行する場合、会社はストック・オプションの公正な評価額の一部を、毎会計年度、役員報酬や給料と同様に費用として計上しなければなりません。毎会計年度の費用計上額は対象勤務期間を基礎とする合理的な方法により計算されます(その計算方法は省略します)。
このような費用計上は会社の利益を減少させますので、会社の業績の点から好ましくないと考える会社もあります。
しかし、有償ストック・オプションを発行する場合には役員、従業員が公正な評価額を会社に払い込むので、当然ながら同額の一部を費用計上する必要はありません。
さらに、株価や業績の達成などを条件とすることにより公正な評価額を低減して、役員、従業員が容易に払い込むことができる額にすることが可能です。
しかも、株価や業績の達成などを条件とすれば、株主や市場は会社の強い決意を認識することになります。
役員及び従業員にとっても株価や業績の達成等の条件を成就させた場合には利益獲得を期待できますし、会社にとっては人材の確保にも役立ちます。
また、上記のとおり取締役会決議で足りるので、会社が機動的に発行できるというメリットがあります。
このようなメリットがあるため、東証一部上場企業の中でも、ソフトバンク、日本M&Aセンター、ドウシシャなどが有償ストック・オプションを発行しています。