村上ファンドと阪神電鉄とのせめぎ合いが大きな話題となっていますので、今回は、村上ファンドが阪神電鉄経営陣に対して行った取締役の選任議案について述べたいと思います。
村上ファンドが3月1日に提出した大量保有報告書で、村上ファンドの阪神電鉄株式の保有割合が2月22日時点で45・73%に達したことが判明しています。6月29日開催予定の株主総会で議決権を行使できる株主の確定を行う基準日は3月31日ですので、村上ファンドは45・73%の議決権を持っていることになります。従来、阪神電鉄の株主で議決権を行使したのは60%程度ということですので、今までの例から言えば、村上ファンドが株主総会における過半数の議決権を有していると言えます。
ところで、6月29日開催の阪神電鉄の株主総会で最も重要な議題は取締役の選任です。9人の現取締役の任期が株主総会の終了をもって満了しますので、必要な人数の取締役を選任します。
取締役候補者の人選(任期満了した取締役の再任、もしくは新たな取締役の選任)については、原則として、現経営陣が決め、それが株主総会の招集通知の議案として株主に送付されます。
村上ファンドは、自らが推薦する9人の取締役の選任をするよう求める議案を株主総会で提案するよう求めています。この提案は、商法233条の2(新会社法では303条ですがほとんど同じ内容です)にいう株主提案権の行使です。この提案権の行使は、原則として書面で行わなければならず、報道によれば、5月2日に開封するという約束のもとに書面で行われたということです。
なお、株主提案権の行使は、6ヶ月前から引き続き総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主に限るという要件がありますが、今回の件では問題なく満たしているようです。また、株主提案権の行使は株主総会の8週間前までにしなければならないのですが、これも満たしているようです。
以上のように、阪神電鉄の株主総会では、現経営陣の推薦する9人の取締役選任と村上ファンドの推薦する9人の取締役選任の2つの議案が提案されることになると思います。
ところで、仮に、村上ファンドが株主提案権を行わなかったとすれば、村上ファンドが、株主総会当日に、議案となっている取締役以外の取締役の選任をするよう議案の提案(修正提案)をすることは可能でしょうか。これについては、取締役選任の件という議題が株主総会の会議の目的となっている場合には、その中身については修正提案がありうることは当然ですので可能であることには争いがありません。
なお、株主提案権の行使期限との関係で、現経営陣は6月29日の株主総会を前倒しして、たとえば6月1日に株主総会を開催することも不可能ではありません。そうすると、村上ファンドの今回の書面は8週間前の請求という要件を満たさなくなるので、株主提案権としては有効ではなくなります。しかし、前述のように、株主総会当日に議案提出が可能ですので、このような作戦は効を奏しないことになります。
結局、阪神電鉄の現経営陣がいかに反発しようとも、現段階では、村上ファンド側からの取締役を拒むことはできないのですが、新聞報道にもされているように、それが村上ファンドにとって望ましい結論と言えるかどうかは別であり、阪急電鉄やその他の第三者の関与の仕方を含めて今後の展開を注視したいと思います。