今年も株主総会の季節が近づいてきました。
以前、村上ファンドが阪神電鉄経営陣に対して行った取締役選任に関する株主提案権行使について述べましたが、今年の株主提案権行使については、新聞報道によれば企業の好業績を背景に投資ファンドからの増配の要求が目立っています。その他には、取締役の選任、三角合併解禁をにらんだ買収防衛策について株主提案権が行使されているようです。
株主提案権は6ヶ月前から引き続き総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を有する株主のみが行使でき、それには取締役会で決定した議題以外の別の議題を付け加える場合と、取締役会で決定した議題について、取締役が提案するものと異なる内容の提案をする場合とがあります。前者は、株主総会の目的となっていない議題の決議を求めるものですが、後者は株主の提案を株主総会招集通知に記載させることに意義があると言えます。今年見られる株主提案権の行使について、前者の例としては取締役の選任があり、後者の例としては増配があります。
今回は、今年目立っている増配についての株主提案権の行使に絞って述べます。
増配を求めて株主提案権の行使がされた場合、株主総会招集通知とそれに添付される参考書類には、株主による増配の議案が記載されます。これにより、取締役会による剰余金の処分の提案と株主による同提案が並存することになり、これらは区別して記載されなければなりません。そして、株主提案については、参考書類に取締役会の意見と株主からの提案理由(通知のあったとき)を記載しなければなりません。
株主総会の取締役会提案と株主提案の採決の順番については、議長はどちらから採決しても構いません。株主総会当日には取締役会側が可決に必要な委任状や議決権行使書面を集めていることも多いと思いますが、そのような場合、取締役会提案を先議して可決されると当然に株主提案は否決されたことになりますので、あえて採決する必要はありません。もちろん、念のためにということで採決することは可能ですし、むしろ株主提案を先議した方がフェアーな印象を与えると思います。
株主提案権の行使以外にも、剰余金の配当が議題とされている場合、株主は議場で修正案の提案ができますので、動議として増配を提案することもできます。この場合、議場の承認を得た上で原案である取締役会提案を先議することができ、これが可決されたときに動議は当然に否決されたことになることは上記と同様です。なお、議決権行使書面で原案である取締役会提案に対し、賛成している場合には動議には反対、またこれに反対している場合には動議については賛否が分からないので棄権ということになります。
現実には、上場会社において増配の株主提案が可決されることは殆どありませんが、株主により増配が提案された後、取締役会が譲歩して、それまで表明していた配当額に上乗せをする例は少なくないと思います。このような状況で招集通知が発送された後に株主提案が撤回された場合、株主提案の扱いが問題となりますが、現実には株主総会で議長が撤回の動議を提出して、出席株主による承認を得て議案から省くということになります。
なお、会社法では、取締役の任期が1年である等の要件を満たせば、定款の定めによって剰余金の配当議案を取締役会の決議事項とし、株主総会の権限から外すことも可能です。今後は、このような会社も現れるのはないでしょうか。