自己株式の取得とインサイダー取引規制
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インサイダー取引とは、簡単に言えば、インサイダーつまり会社関係者等の内部者が、インサイダー情報つまり開示前の重要情報をもとに、その会社の株等の売買等を行うことであり、通常はこれによって利益を得ることを目的にするものです。これは、投資者の市場に対する信頼性を失わせるものであるということで、昭和63年に証券取引法によって規制され、違反した場合には罰金と懲役刑が課せられるようになりました。現在では、村上ファンド事件や、今年に入ってのコマツ製作所の事件、大塚家具の事件、DCMの事件、また、つい約3週間前のプロネクサスの事件のように、新聞紙上をにぎわしています。

インサイダー取引は、開示前の重要情報を知りながら取引をする場合ですが、この重要情報は法律に列挙されています。その中には自己株式の取得も入っており、コマツ製作所の事件、大塚家具の事件は同社が自己株式を取得したことがインサイダー取引にあたるとされた事例ですが、今回はこれを中心に述べます。
自己株式の取得は、会社法上の原則では株主総会の決議によらなければならないのですが、一般的に行われている市場における買付けについては、定款に規定すれば取締役会の決議でできることになっています。おそらく、大多数の上場会社が、そのような定款の規定を有しているものと思います。
このような場合、取締役会で取得する株式の数(及び種類)、引換えに交付する金銭、期間を決議したことの公表があれば、個別具体的な自己株式の取得、たとえば、いつ、何株をいくらで取得するか、についての公表がない状態で自己株式を取得しても、インサイダー取引にはなりません。
なお、証券取引所は、自己株式の取得も適時開示の対象としていますので、決議後速やかに開示しなければならないことになります。

上場会社では、通常はこれらの適時開示をしており、それはルーティンワークといえるものです。しかし、コマツ製作所の事件、大塚家具の事件で問題となったのは、自己株式以外の重要事実が未公表である場合です。自己株式の取得について情報開示があっても、それ以外の重要事実があれば、それが公表されるまではインサイダー取引規制をうけるのです。コマツ製作所の事件では海外子会社の解散、大塚家具の事件では増配という重要事実が未開示の状態で自己株式を取得しており、インサイダー取引として摘発されたのです。
自己株式の取得を指示したのは担当の役員か従業員のようですが、それらの者が会社のために行った場合は、会社にも5億円以下の罰金を課せられることになります。これを両罰規定といいます。
また、インサイダー取引によって得た利益を没収する課徴金制度が平成17年からできており、コマツ製作所に対しては約4300万円の課徴金、大塚家具については約3000万円の課徴金を課すよう証券取引等監視委員会が勧告したということです。つい先日の新聞報道では、この課徴金の額を引き上げようという動きもあるようです。

上記の例はうっかりミスのようですが、大規模な会社では、自己株式の取得の度に未開示の重要情報がないかチェックするのは大変です。そのため、インサイダー取引防止をするシステムを工夫している会社も多いようです。
とえば、証券取引所の上場企業へのアンケート結果の報告(http://www.ose.or.jp/rules/cp/jo_en.pdf)によれば、自己株取得を行う部署とその他の部署との間に厳格な情報障壁を設け、自己株取得に係る個別買付に係る情報が他の部署に伝わらないようにすることや、他の部署で発生した重要事実が自己株取得の担当部署に伝わらないようにする、信託銀行や証券会社に個別の執行に一任し、上場会社とそれらの機関との間で情報障壁を設ける方策等がとられているようです。